パリ五輪が開幕し、メディアが「五輪一色」となっている。元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さんは「私は日本人選手の発信に期待したい。『子供たちに夢を』と言うのであれば、具体的な社会問題に勇気をもって言及してもらいたいし、メディアにもそれを積極的に報じてほしい」という――。
金メダルを手に喜ぶスケートボード男子ストリートの堀米雄斗。五輪2連覇を果たした(2024年7月29日、パリ)
写真提供=共同通信社
金メダルを手に喜ぶスケートボード男子ストリートの堀米雄斗。五輪2連覇を果たした(2024年7月29日、パリ)

また「メダルの数」を数える日々が始まった

パリ五輪が開幕した。市の中心部を流れるセーヌ川とその周辺が会場となった開会式は、競技場外での挙行という夏季五輪では初の試みだった。斬新な仕掛けを施しつつ大会ごとにその派手さを際立たせながら、五輪はいまだに生きながらえている。そう印象づけられた。

マスメディアは、感情に訴えかけるナレーションを用いながら、その後も五輪を盛り上げる論調で記事や映像を乱発している。ことさら日本人アスリートのメダル有力候補を取り上げ、その個人的なヒストリーを感情移入しやすいように仕立て上げて、取得メダルを数えることに躍起している。自国開催だった前回大会と比べればその過熱ぶりは控えめながらも、演出が施された五輪特有の祝祭ムードはいつもと変わらず私たちの日常を席巻しつつある。

浮ついた五輪報道に触れれば、いやおうなく3年前の東京2020大会が思い出される。新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言が出されていたにもかかわらず強行開催したあの大会は、忌まわしい記憶で塗りつぶされている。

パリ五輪に東京五輪の反省は生かされたのか

この「忌まわしい記憶」についてはすでに書いたのでここでは繰り返さない(「『東京五輪の失敗を繰り返してはいけない』2030年札幌五輪を阻止するために今やるべきこと」)。しかしながら、閉幕後しばらくして大会組織委員会が解散することから十分な検証ができない構造的な問題を思えば、当時の情況は記憶に留めておかねばならない。これを機にぜひ一読しておいてほしい。

華やかなりし建て付けの背後には、利権に基づく不正が渦巻いている。一掃された野宿者や、関連施設の建設に伴い立ち退きという憂き目に遭った居住者など、マイノリティを犠牲にして行われる現行の五輪は、やはり一刻も早くやめなければならない。