「子供たちに夢を」は何も言っていないのと同じ
たとえば、日本では子供の9人にひとりが相対的貧困であることをどう思うのか。あるいは自治体によっては量も質も低下する学校給食についてどう感じるのか。スポーツハラスメントに苦しむ子供を減らすにはどうすればよいのかなど、「夢を与える」というなんら具体性に欠けるメッセージではなく現実を踏まえたメッセージを発信してほしい。そして、メディアはこうした発言を積極的に取り上げていただきたい。
アスリートがその競技だけに打ち込むのは美談でもなんでもない。アスリートは夢の国の住人などではなく、社会で生きるひとりの人間だ。だからこそ果たすべき責務がある。
ひとりの人間として、自ら依って立つ社会を健全化するためにその影響力をすべからく行使できる人が、これからのアスリートのあるべき姿だ。こうしたアクティビズムに一歩を踏み出すアスリートが日本に増えれば、スポーツの社会的価値は確実に書き換えられるだろう。
この度のパリ五輪は、アスリートたちの卓越したパフォーマンスを楽しむとともに、いやそれ以上に「アスリート・アクティビズム」に目を向ける。