人生の幕を閉じるとき後悔しない生き方は何か。医師の和田秀樹さんは「自分の心と体の声をしっかり聞いて、10年後に生きていられるかどうかわからないから、やっぱり旅行に行こうと考えられると、死ぬまでの生活をより濃厚に楽しめる。『極上の死に方』とは、人生の幕が下りるまで、自分らしく生きぬくということだ。死ぬときに後悔しない生き方の心得10を紹介しよう」という――。

※本稿は、和田秀樹『どうせ死ぬんだから』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

木製の桟橋でリラックスしている中年のカップル
写真=iStock.com/Toa55
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私がたどりついた死生観「人間、死んでから」

私の死生観にもっとも影響を与えたのは、大ベストセラー『「甘え」の構造』の著者である精神科医の土居健郎たけお先生です。

アメリカに留学していた30代のはじめ頃、私は現地で精神分析を受けていました。

当時、日本で主流だった患者の無意識を探る精神分析とは違い、患者の心を支えるその精神分析は心地良く、「共感の心理学」であるコフート心理学を学ぶようになりました。

日本に帰ってからも、メンタルヘルスのために精神分析的なカウンセリングを受けることにしました。

その際、土居先生の「甘え」理論が、コフートの考えともっとも近いと感じて手紙を書いたら、治療を引き受けてくださいました。

精神分析の理論にとらわれず、ざっくばらんに悩みを聞いていただきましたが、あるとき、自分の本がなかなか売れない、知名度がなかなか上がらないという愚痴をこぼしたら、こうおっしゃったのです。

「人間、死んでからだよ」

当時、まだ30代だった私は、その言葉を聞いてもピンときませんでしたが、死というものを考えるようになってから、その意味がわかるようになりました。

いまの知名度や売れ行きにあくせくするよりも、死んでから、みんながどう評価してくれるかのほうが大事であり、いま世間の評価に迎合する必要はないということだろう、と。