米東部時間の7月21日午後、バイデン大統領は再選へ向けた選挙戦からの撤退を表明し、直後にカマラ・ハリス副大統領を自身の後継に指名しました。ハリス氏については8月19日からシカゴで行われる民主党の全国大会で、代議員の過半数の指名を受ける必要があり、下手をすると候補が乱立して党内が混乱する可能性も指摘されていました。
ですが、大統領選への立候補表明後24時間で、ハリス氏の陣営には8100万ドル(約127億円)という記録的な寄付が集まる一方で、党内では続々支持が集まっているようです。非公式ですが、既に候補としての指名に必要な代議員数を確保したという報道もありますし、23日にウィスコンシン州で行われた大統領候補としての初の演説会も好評でした。
ということで、予想以上に幸先の良いスタートを切った格好のハリス氏ですが、この先、本選でトランプ候補を倒すためにはどうしても避けて通れない問題があります。それは、国内における格差の問題です。
ハリス氏の当面の活動は、23日の演説でもそうでしたが、人権派の鬼検事という自身のイメージを最大限に発揮して、中絶や人種の問題を中心にトランプ候補と激しく渡り合う作戦が中心となりそうです。これによって、女性や有色人種の票をまとめきるというのが狙いです。
勝敗を左右する「スイング・ステート」
ですが、いかに切れ味の良いトークでトランプ氏に対抗するにしても、これだけでは勝てません。特に勝敗を左右すると言われている「スイング・ステート」、つまり民主党と共和党が拮抗している接戦州で勝つには、もう1つの大きなテーマで論戦に勝つ必要があります。それは国内の格差問題です。
現在のアメリカは、コロナ禍に対してトランプ、バイデンの両政権が実施した巨額のバラマキの結果、カネがまだ惰性で回り続けています。その結果として景気は過熱気味で、物価は高止まりしています。全体の数字は良いのですが、物価が下がらないことで年金生活者の一部や貧困層からは、生活の苦しさを訴える声が続いています。また大学卒の若者の就職も難しい中で、奨学金の負債に苦しむ層もあります。一方で、ハイテクの進歩による自動化、とりわけAIの実用化などで従来型の雇用には揺らぎが見えます。
これに対して、ハリス氏の本来の政策はグローバリズムと知的産業に寄り添うものでした。つまり、国際分業を認め、知的な産業で国内競争力を拡大して、全体の経済はトリクルダウンで回すというクリントン路線に近い考え方です。自由経済こそがアメリカの活力であり、人々には機会の均等を保証し、良い意味での競争を通じて全体を活性化するというわけです。
ハリス氏が問われているのは、この考え方だけでは、2つの敵に攻め込まれてしまうという問題です。2つの敵とは、民主党内の左派と、トランプ派のことです。まず民主党内の左派は、国内の格差問題に非常に敏感です。医療保険が部分的に民間の営利企業によって担われている現状(オバマケア)に反発し、奨学金ローンには徳政令を要求、富裕層への課税を強化して再分配を強化するというのが彼らの主張です。