私が実践していることに「60%即決主義」がある。60%の確率でいけると判断したら、40%のリスクがあっても即、実行に移す。この考え方を、私は管理職になりたての頃、上司から叩き込まれ、いまでも実践している。

商売にはタイミングが重要だ。100%の安全性を求めると、商機を逸してしまう。だから、60%オーケーと判断したら、間髪を入れず実行に移す。不都合が生じたら、軌道修正していけばよい。朝令暮改おおいに結構というマインドで、ともかく前に進んでいくのである。

「朝令暮改」おおいに結構の精神でとにかく前に進んでいけ
「朝令暮改」おおいに結構の精神でとにかく前に進んでいけ

こう言うと、10年スパンで長期トレンドの本質を読めという先ほどの議論と矛盾するように思えるだろう。しかし、このふたつは決して矛盾しない。

社長就任以前に手掛けた仕事に、資生堂の名を冠しないブランド、「イプサ」の立ち上げ(1987年)がある。ブランドの育成もまた、人材育成同様、長い時間を要するものだ。

イプサは従来のブランドとは異なり、TVCMを一切せず口コミでの浸透を図ったため、立ち上げ当初の売り上げは低迷した。89年には、私自身がイプサから外されるという憂き目にも遭っている。その時期を乗り越え、ブランドを成長させることができたのは、イプサがお客様の期待を超える新しい価値を提供できると確信していたからである。

60%即決主義を地でいくには、このビジネスは成功するという確信を強く持っている必要がある。その確信を得るためには、とりも直さず、時代潮流の本質をしっかり掴まえておく必要があるのだ。

イプサの売り上げが当初伸び悩んでいたにもかかわらず、私が「長い目で見てほしい」と経営陣に訴え続けることができたのは、カウンセリングによってお客様ごとに「レシピ」を作るイプサの販売方式は必ず成功するという、絶対的な確信があったからである。

(山田清機=構成 若杉憲司=撮影)