任せる勇気があれば時間は生まれる

<strong>JTB社長 田川博己</strong><br>1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日本交通公社入社。取締役営業企画部長、常務、専務を経て、2008年6月より現職。趣味はタウンウオッチング。様々なことに興味を持ち観察することが大切、と説く。「インターネットもいいですが、実際にその場所に行って、人と交わることに意味があるんです」
JTB社長 田川博己
1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日本交通公社入社。取締役営業企画部長、常務、専務を経て、2008年6月より現職。趣味はタウンウオッチング。様々なことに興味を持ち観察することが大切、と説く。「インターネットもいいですが、実際にその場所に行って、人と交わることに意味があるんです」

同じ経営者でも、社内の会議に多くの時間を費やすタイプと必要最低限の会議にしか時間を使わないタイプがあるとすれば、私は後者の代表格に入るだろう。経営関連で出席するのは経営会議と取締役会くらいで、営業系や総務系など基幹業務に関する会議はすべて担当役員に任せる。それは、トップ自ら社外へ出て、現場に行く時間を確保するためだ。

旅行業のようなサービス産業では答えはすべて現場にある。とりわけ変化の激しい時代にはトップ自身が現場で新しいものを経験しながら、経営判断をしていかなければならない。会議室にいる時間を絞り、現場に出る。当社の場合、その度合いは2006年に各地域の営業拠点を分社化して以降どんどん高まってきた。

北海道から沖縄まで、地域別に事業会社を設置する新体制は地域活性化に重心を置くためだった。旅行商品は本社主体で企画する「発地型」から地域主体の「着地型」へシフトする。地域での各種イベントの企画や誘致に力を入れる。そのため、各地域会社の社長と私とでコンビを組んで現地の首長や関係先を訪ね回り、私はグループとしての戦略を、地域会社の社長は個別の戦略を説明して回る。

JTBグループでは現在、既存の「総合旅行産業」から、人の交流を柱とした「交流文化産業」へ事業領域の拡大を図っている。それは地域にどのように貢献するのか。地元に呼ばれてトップ自ら講演に行くことも多い。出向けば、必ず現場の人たちとコミュニケーションをして、生の声を聞く。

一方、グローバル化の進展とともに海外へ出る機会も増えた。現地の航空会社や観光施設のトップと会い、手を組むことで国際交流にどのように貢献できるか、トップ同士で語り合う。海外出張といえば、前は支店長会議に出るのが目的だったのが、今は中身が大きく様変わりした。こうして内外を問わず、社外へ出て現場で人と会う時間が何倍にも増えた。その時間をつくるには出席する社内会議を絞り、担当者に任せるしかない。