興味深いのは寄席囃子で、これは「女子」だけだ。こちらについても女性しか職に就けないからだという。落語家の立川平林氏に尋ねたところ、寄席囃子で男性は見かけたことがないという。
国立劇場の運営機関がこうした方針でよいのだろうか。現在、研修生の募集に苦労している状況のようだ。抜本的な改革が必要な時期かもしれない。
かつて宝塚歌劇団に「男子部」があったが…
逆に女性だけの世界もある。その典型例が宝塚歌劇団だ。宝塚音楽学校を卒業した女性(タカラジェンヌ)だけで構成された歌劇団であることで有名だが、女性は女性でも未婚女性だけで構成されている。
現代感覚でみれば、差別的にも思えるが、男性も劇団員にしろとか、結婚したら退団というのはかしからんといった声はあまり聞こえてこない。いまどき結婚したら退職しなければならない職場があったら大問題だろう。
実は、かつて、宝塚に「男子部」というものがあった。1919年に宝塚音楽学校に8人の男性が入学したが10カ月後に解散。その後1945年以降、男性の入学者が5人、翌年に3人、翌々年に5人が入学している。
しかし、女性劇団員やファンからの猛反対を受けて、公演には出演できず、「影コーラス」(客席から歌い手は見えず、歌声のみが聞こえるコーラスのこと)で参加しただけになった。この実話をもとにして2007年に『宝塚BOYS』という舞台が上演されている。
なぜ、わざわざ女性が男を演じる劇団がこれほど人気なのだろうか。男役と娘役という存在が描き出す男女の架空性と幻想性にその理由があるという意見がネットで見られた。また、未婚に限る理由については、結婚という正式なかたちで現実世界の男女関係に組み込まれることは、宝塚歌劇の世界に存在する男女の架空性と幻想性が崩れるからだという意見もあった。なるほどと思う。
守るべきは守り、変えるべきは変える
歌舞伎界では昨年5月、「猿之助騒動」が人々の耳目を集めた。宝塚歌劇団では昨年9月に所属団員が死亡し、『週刊文春』などがいじめの実態を詳報した。男だけの世界、女だけの世界は、いびつな人間関係を作り出しやすいのかもしれない。
かなり古いが、2008年にNHKが「NHKスペシャル 女と男 最新科学が読み解く性」を放送した。その中で、宇宙飛行士が男だけ・女だけより、男女混合のほうが適切な判断ができるというNASAの研究を紹介していた。
芸術世界はこのようなシビアなものではなく、娯楽として成り立てば公序良俗に反しない限りは自由であるはずだが、いびつな人間関係や差別は、その持続可能性という意味におい早急に考慮しなければならない課題である。
芸術的な魅力を引き出しながら組織としての健全性を保持し、未来に向かって躍進する歌舞伎のあり方が問われている。