「殿堂」だからこそ男性だけの伝統にこだわるのか

ただし、ここで注目したいのは「大相撲」という表現だ。

日本相撲協会が主催する「大相撲」は数多くある相撲興行の中で最も権威ある競技と認識され、東京での開催は国技館である。相撲の伝統を守ることが使命という認識が強いのだろう。事実、世の中には女子相撲もあり、公益財団法人日本相撲連盟(アマチュア相撲の普及振興団体)の加盟団体に日本女子相撲連盟がある。

土俵
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女人禁制を取る理由については大相撲の土俵を神聖な場所として考える中で、血を不浄なものととらえ、出産や月経を経験する女性を遠ざけるためといった説があるが、明治以降の考えという指摘もある。

松竹が興行主の歌舞伎座の歌舞伎も「大歌舞伎」と表現されている場合が多い。歌舞伎の伝統を守る殿堂としての自負の表現であろう。

一方、独自の路線を歩む前進座という劇団がある。東京・吉祥寺に本拠地を置く歌舞伎を中心として興行を行う劇団で、かつては同地に客席数500の劇場を有していた。歌舞伎以外の公演も行っていることもあるが、所属俳優の半数ほどは女性だ。歌舞伎興行においては男性だけで演じることもあるし、女性が混じる場合がある。

2024年5月の「前進座歌舞伎公演」(東京建物Brillia HALL)では「舞踊 雪祭五人三番叟」で、女優のみによる舞台とし、歌舞伎音楽の浄瑠璃、三味線、囃子も女性という趣向の興行を行なって話題となった。一方、同時に上演された「歌舞伎十八番の内 鳴神」は男性俳優だけで演じられた。同劇団によれば、演目の内容によって女性の配役も考えているという。

伝統と現代的価値観の融合はできないのか

歌舞伎の大きな特徴の一つは女形だろう。もし女性の歌舞伎役者を誕生させれば、その伝統・技が崩れてしまうという危機感があるとすれば理解できる。男性が女性を演じることは女性ではないゆえに工夫が必要で、それが技となり究極の美となっている側面がある。

そもそも歌舞伎のルーツは出雲の阿国という女性が安土桃山時代からで江戸時代初期にかけて京都で奇抜なかっこうをして踊った「かぶき踊り」とされる。歌舞伎かぶきの言葉は傾く(かぶく)から来ているともされる。

しかし江戸時代の寛永6年(1629年)以降、風紀の乱れを理由に女性が舞台に立つことを幕府が禁じたため、女形が誕生した。不自由こそが芸術を生むとされるが、女形もそうした状況にあったからこそ生まれたものであろう。

一方、現代社会では男女の区別が差別として認識される場面も増えてきた。人々の価値観は多様であるが、「自分らしく生きる」ことができる社会の構築が重要な政治課題になっていることは間違いない。看護婦の名は看護師となり、保母の名は保育士となった。男の職域とされてきた航空機パイロットや自衛隊員などにも女性が採用されている。