ハンガリーの「ファミリー・ライフ・プログラム」

「これまでの性教育は、望まないセックス、妊娠や性感染症から身を守る方法といった、性的関係をネガティブに見る視点から語ってきました。しかし、家族をもつこと、子どもをもつこと、性的関係をもつとはどういう意味があるのかなど、性をポジティブな視点からも語るべきだと思うのです」と語るヨー氏。

ハンガリーの性教育は、「ファミリー・ライフ・プログラム」の名のもと、年齢により「生物」や「倫理」の授業として、小学校1年生から高校3年生まで継続して行われている。性と生殖にまつわるトピックスだけではなく、年齢に応じて、個人の自尊心や幸福感、家族、友人、恋愛、セックスなどあらゆる人間関係におけるコミュニケーション、そして、大切な人を亡くした喪失への対処、マスメディアやソーシャルメディアとの付き合い方など、人が人生で直面するあらゆる要素を網羅している。

そして、医療従事者から性科学者や心理学者までトピックスにより講師は変わり、一方的なコミュニケーションではなく、講師と生徒の自由なオープンディスカッション形式で行われているそうだ。

ハンガリーの性教育は1年間で33時間

例えば、中学2〜3年生が受ける性教育は、家族(12時間)、対人コミュニケーション(9時間)、人格と価値観(9時間)、自己認識と感情的知性(9時間)、ジェンダーとセクシュアリティ(12時間)、ライフサイクルと思春期(7時間)、人生の分かれ道と決断の場面(8時間)と7つのテーマに分かれて合計66時間かけて、人生を教える包括的なプログラムとなっている。

「子どもは贈り物」として親の責任、家族の価値、養子縁組や不妊まで打ち出しているところがハンガリーの性教育の特徴だろう。それ以外は、性交に至る過程はもちろん、セーファーセックス、性自認、ジェンダー、男女平等、出産の種類や不安との付き合い方、不妊、中絶、養子縁組、ボディ・ポジティビティ(自分の身体を愛する)、ポルノや売春などのトピックスを含んだ包括的な内容だ。

ハンガリーの学生たちに性教育について聞くと、「コミュニケーションを学んだのでとても役に立ったと思う」「人間関係や恋愛の心理を学ぶのが面白かった」など、肯定的な意見ばかりだった。

実は、ハンガリーのオルバン政権は新保守主義を掲げ、公的な性教育でLGBTQを積極的に教えてはいない。とはいえ、同性愛者やトランスジェンダーも都市部ではよく見かけるし、国会議員にも同性愛者はいる。同性婚はないが、2016年に成立された同性のパートナーシップ制度は、婚姻と同等の法的権利を授けており、何の法的権利もない自治体レベルの同性パートナーシップをもつ日本よりも、ずっと進んでいる。

ハンガリーの中絶手術は公立の医療機関なら2万円未満で受けられ、社会的に困難な人などは無料だ。10万円前後する日本より安いが、手術前にカウンセリングで胎児の心音を聞かなければいけない。これについては国内外で批判の声が上がっている。

超音波検査の画像
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中絶について女子学生に意見を聞くと、このような答えが返ってきた。「未成年だと無料で中絶手術を受けられる場合が多いと聞いているし、中絶を気軽に考えないように、胎児の心音を聞くのは妥当だと思う」「私も世論も中絶を支持しているけど、避妊の手段として気軽に使うべきではない。でも当事者だったら嫌な気分になるだろう」。心音を聞かせることに対してやや感情的な反応をする他国の人とは異なり、受けた性教育のベースの上に立った冷静は判断をしているということだろうか。