もちろん小池都政への批判も避ける石丸氏の選挙戦は、小池氏を倒すには不十分だった。そもそも政党や組織の支援を受けず、小池氏や蓮舫氏の知名度に遠く及ばなかった石丸氏が、200万~300万票の当選ラインを超える可能性はほとんど見込めなかった。
100万票に届けば大健闘と言われていたのである。そのなかで石丸氏の現実的な戦略目標は当初から「2位」であり、蓮舫氏を追い抜くことで政界の注目を集め、今後の政治的影響力を最大化させることにあったのだろう。それは的中した。
165万票を集めて蓮舫氏を大きく抜き去った大躍進は、自らの「拒否度」を下げて「小池氏も蓮舫氏も嫌い」という無党派層を引き込む巧みな選挙戦略の成果である。既存政党への不信と未知数の第三極へ期待が彼を押し上げたといっていい。
各党は次の総選挙で想像以上のしっぺ返しを受ける
この構図は次の総選挙にも当てはまる。
自民党と立憲民主党への不信が高まり、これまで第三極として受け皿となってきた日本維新の会も大阪万博への批判で失速するなか、未知数の新党が結成されれば期待感が高まり、大躍進する展開は十分にあり得る。石丸氏が維新からの推薦を断ったのは、維新がすでに新党ではなく既存政党と受け止められていることの証しだ。
裏金事件で逆風を浴びた自民党も、都知事選で失速した立憲民主党も、9月の党首選挙でどこまで体制を立て直すことができるのか。既存政党への強烈な不信が都知事選で可視化されたことを踏まえ、「党が生まれ変わった」という姿を大胆に見せることができなければ、総選挙で想像以上のしっぺ返しを受けるに違いない。
石丸氏は選挙後、テレビに引っ張りだこである。ここでは幅広い層を取り込む都知事選の「さわやか戦略」から、あえて質問を噛み合わさずに強烈な言葉で切り返す「コワモテ路線」に転換した。「さわやか戦略」を続けるだけでは次第に埋没していくとみて、政治屋やオールドメディアを敵視して挑発的発言を繰り出す本拠地であるYouTubeの世界へ立ち返ったとみていい。
リベラル層や穏健保守層の反発を浴びたとしても、YouTubeで100万回以上の再生回数をはじきだす原動力となってきた熱狂的支持層をさらに固め、政治エネルギーに変換していく戦略だ。岸田文雄首相の地元である衆院広島1区からの出馬を匂わせたり、橋下氏や泉房穂氏が新党を結成すれば参加する意向をにじませたり、話題作りにも余念がない。
YouTubeで磨いた「世論の関心を引き寄せ続ける」戦法が、政治屋がひしめく永田町でどこまで通用するのか。今後の動向から目が離せない。