小池都政の是非よりも「人気投票」に
明治神宮外苑などの都心再開発に加え、都庁外壁のプロジェクションマッピングなど巨大事業を請け負う業界は、小池都政がリセットされて事業が打ち切られることを何よりも恐れている。小池都政から恩恵を受けている人々は「既得権」を守るため、「小池都政の継続」を切望し、こぞって投票所へ向かう。これが組織票の実態だ。
小池都政が進めてきた保育料無償化などの子育て支援も、潤沢な都税収入があってこそ実行できる政策だ。30代女性を中心とする子育て世代で小池支持が高いのも「小池都政がリセットされれば子育て支援が減らされるかもしれない」という懸念からだろう。
小池都政から恩恵を受けていない人々の多くは、この実態に気づかない。そこで過去最多の候補者56人から「いちばん好きな人」を選んで投票する。大概は「小池都政の継続か交代か」ではなく、小池氏を含む56人の「人気投票」と考えて大切な一票を投じる。小池都政から恩恵を受けている人々は小池氏に集中して投票するのに対し、小池都政から恩恵を受けていない人々は小池氏を除く55人に分散して投票する(あるいはその多くは投票所へ行かない)。これでは現職有利なのは当たり前だ。
「アンチ小池票」の分散
現職の対抗馬が事実上一人に絞り込まれて「一騎打ち」の激突構図になれば「小池都政を終わらせるために、好きな候補は別にいるけれど、ここは勝てる確率が最も高い対抗馬に投票しよう」という人も出てくる。その結果、「小池都政を継続させるか、交代させるか」が最大の争点となり、大激戦となる。現職に挑む対抗馬は「一騎打ち」の激突構図を作り出さなければ勝負にならない。
今回の都知事選はそうならなかった。第三の候補である石丸氏が台頭して三つ巴の対決構図となり、②の「アンチ小池票の分散」が起きた。2位の石丸氏(165万票)と3位の蓮舫氏(128万票)を足すと1位の小池氏(291万票)をわずかに上回るのだが、アンチ小池票が分散する三つ巴の対決構図になった時点で、現職の小池氏が逃げ切る公算が高まり、選挙戦の関心は石丸氏と蓮舫氏の2位争いに移った。石丸氏の台頭が都知事選の注目点を「小池都政の是非」から「2位争い」に変え、窮地の小池氏を救ったといえるかもしれない。
立憲民主党が「一騎打ち」に持ち込めなかったことが最大の敗因である。そこで重要となる論点は、③の「蓮舫氏を対抗馬として擁立」した戦略自体の成否だ。