都庁記者クラブによる現職への巧妙な肩入れ
立憲は打倒小池を最優先に目指すのなら、個性派の蓮舫氏ではなく、知名度は低くても保守層や無党派層に抵抗感の少ない対抗馬を擁立すべきだった。
東京選出の国会議員で選ぶなら長妻昭衆院議員のほうがよかったし、さらには国会で裏金問題を追及した当選1回の山岸一生衆院議員ら石丸氏と同世代の若手を大胆に擁立する方がアンチ小池票の受け皿となっただろう。政党色の薄い学者や首長経験者の方がなお適任だったかもしれない。
蓮舫氏は当初こそ「小池都政のリセット」を掲げたものの、「批判ばかり」との批判を恐れ、途中からは「批判よりも提案」を重視し、「優しい蓮舫」のイメージ戦略に転換した。これも失敗だった。
先に述べたように、徹底したネガティブキャンペーンで現都政の腐敗や不公正を炙り出し、それを拡散させ、恩恵を受けていない人々の怒りや不満に火をつけない限り、恩恵を受けている人々に強く支えられた現職を倒すことはそもそも困難なのだ。「蓮舫氏は好きではないが、小池氏を倒す可能性が最も高いから、蓮舫氏に入れるしかない」という空気を醸成することが勝利への絶対条件だったのだ。
マスコミが「批判」よりも「提案」を求めるのは、現都政の継続を内心では望んでいるからだ。大手新聞社は東京五輪のスポンサーになってから小池都政と一体化し、都庁記者クラブの定例記者会見でも小池知事に厳しい質問はほぼ出ない。
客観中立を掲げて小池批判を控える穏健な選挙報道は、巧妙な現職への肩入れといえよう。蓮舫氏はマスコミがつくる選挙報道の土壌にのってしまった感がある。劣勢が伝わる最終盤で再び小池批判を強めたが、都民に広く浸透することはなかった。
「政治屋の一掃」石丸氏はなぜ「2位」になれたのか
石丸氏は「東京を動かそう!」「選挙を楽しんで!」という柔らかいフレーズを連発するだけで具体的な政策を語らず、立憲と共産のコア支持層を除く「恩恵を受けていない人々」の支持を引き込むことに成功した。
唯一挑発的に掲げた「政治屋の一掃」にしても、「政治屋」とは誰のことか、小池氏なのか蓮舫氏なのか、自民党なのか立憲民主党なのか、最後まで明確にしなかった。都知事に就任しても、都議会を多数を占める「政治屋」たちをどうやって一掃するのかという道筋も示さなかった。
そのあいまいさこそ、小池都政に限らず、すべての政党や政治家に対する不信を募らせている若年現役世代を中心とした無党派層を柔らかく包み込む受け皿となった最大の要因であろう。強烈な個性のある小池氏と蓮舫氏に対抗し、新人候補のさわやかさを前面に打ち立てて「拒否度」を下げることに成功したのである。