「蓮舫氏の是非」が争点に浮上

蓮舫氏はリベラル色が強く、立憲や共産のコア支持層に絶大な人気がある。一方で、保守層や無党派層には民主党政権時代の「2位じゃだめなんですか?」に代表される攻撃的姿勢への拒絶感も強い。「好き嫌いが大きく割れる個性派」だ。

このタイプの政治家は定数6の参院選東京選挙区なら熱狂的な支持者に支えられて勢いづく。けれども定数1の衆院小選挙区や知事選では、アンチ票が他候補に流れて伸び悩むことが多い。

今回の都知事選もそうなった。蓮舫氏擁立で「小池都政の是非」は薄れ、代わって「蓮舫氏が好きか嫌いか」に関心が集まった。当初は小池都政を批判していた保守層は一転して「蓮舫阻止」に動き出し、週刊誌やネットメディアで蓮舫氏のネガティブキャンペーンが始まった。政官業の癒着や学歴詐称疑惑の再燃で高まっていた小池批判は次第に沈静化し、「蓮舫氏の是非」が争点に浮上したのである。

この責任は蓮舫氏にはない。知名度の高い蓮舫氏を現職の小池氏を倒す最強の候補者と勘違いした立憲民主党にある。

先に述べたように、都知事選で現職は負けたことはない。都政から恩恵を受けている人々はこぞって現職に投票するからだ。真正面から政策論争を挑むだけでは現職を打ち負かすことは困難だ。まずは一部の人々にだけ恩恵を与えている現都政の不公平な実態を暴き、それを大々的にアピールして、恩恵を受けていない人々の怒りや不満をかき立て、それを自らの支持に引き寄せる必要がある。

下から見上げる都庁
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コア支持層が熱を帯びるほど、無党派層が冷めていく悪循環

ところが、現職への対抗馬が好き嫌いの激しい政治家なら、現職への批判票は他の候補へ分散してしまう。批判票を一身に引き寄せる受け皿とならないのだ。

蓮舫氏はこの経過をたどった。彼女が獲得した128万票は、2年前の参院選で自身の得票(67万票)と共産党の山添拓氏の得票(68万票)とほぼ同数だ。立憲と共産のコア支持層を固めたものの、若年現役世代を中心とする無党派層には完全にそっぽを向かれたのだった。

蓮舫氏の街頭演説は連日熱気に包まれたが、コア支持層が内輪で盛り上がったに過ぎず、外へは伝搬しなかった。小池都政からは何の恩恵も受けていないものの、蓮舫氏には抵抗を感じる人々の多くが「政治屋の一掃」を掲げた石丸氏に流れたのである。

都知事選の投票率は前回を5ポイント上回った。かつては投票率が上がれば野党が有利といわれたが、近年は投票率が上がるほど立憲は劣勢となる。それほど無党派層に見放され、コア支持層は高齢世代に偏っている。4月の衆院3補選に全勝したのも、自民党支持層が棄権して投票率が下がり、立憲や共産のコア支持層の投票総数に占める比重が増したからだった。

今回は投票率が上がった分を石丸氏に持って行かれ、追い抜かれた。コア支持層が熱を帯びるほど、それ以外の人は冷めて敬遠していくという悪循環に陥ったのだ。