安全対策を指摘する声は聞こえてこない
元皇族のプライバシーは、国民の多くに結婚を反対されて逃げ出したのだから致し方ないが、国の宝である大谷翔平のプライバシーはまかりならんとでもいうつもりなのだろうか。
私が不思議に思うのは、こうした報道の中で、大谷がプライバシーを断固守りたいのなら、それ相応の警備費用を負担して、プライバシーや家族の安全を確保すべきではないかという論調が、私が知る限りほとんどなかったことである。
Forbes JAPAN(2021年3月16)によると、英国のヘンリー王子とメーガン妃は、王室を離脱したため、自らの身の安全を保つために莫大な費用を捻出しなければならなくなったことがあったと報じていた。
Forbesがセキュリティーの専門家4人に話を聞いたところ、夫妻が24時間体制の警護を依頼すれば、そのためにかかるコストは年間およそ200万~300万ドル(約2億2000万~3億3000万円)になっただろうという。
大谷がプライバシーを完全に守りたいなら、それ相応の負担も考えなくてはいけないのではないか。私のこのような考え方は、この国では非常識なのかもしれないが……。
この騒動の波紋はフジテレビの社長が謝るという事態にまで発展してしまった。
滑稽を通り越して哀れさが漂う
スポニチアネックス(7月5日)によれば、フジテレビの港浩一社長は7月5日の定例会見で、こう述べたという。
「『フジテレビの報道により、大谷選手とその家族、代理人をはじめとする関係者にご迷惑をおかけし、大変申し訳なく思っております』と謝罪した。
『新居に多くの観光客や地元の方が訪れる状況が発生しているということですので、今週、放送やホームページ上で視聴者の皆様に大谷選手の自宅をはじめ、プライベートな空間を訪れることはお控えいただくようお願いいたしました』と続け、『なお、一部メディアでフジテレビがドジャースの取材パスを凍結されたと報じられておりますが、当社が取材パスを失い、ドジャースの取材ができなくなったという事実はなく、適切な取材を心がけながら、現在も取材を続けています』とした」
自分の社で報じておいて、視聴者に大谷の自宅を見に行くことは控えろというのは滑稽を通り越して哀れさが漂う。女性セブン(7月25日号)によれば、大谷はせっかくの新居を、今回の報道で引き払うという見方まで出てきているそうだ。
このような無様なことになるのは、この国に健全なスポーツジャーナリズムが育っていないからである。
この国のスポーツ界にはジャーナリズムはないとさえ思っている。プロ野球界、競馬界、相撲界、どこを見ても、取材対象にベッタリ張りつき、タメ口を聞けるようになる、一体化するのがいい記者だと勘違いしている記者ばかりだ。相手との距離の取り方を教えられていないからだ。