MLBはNHK、高校野球は新聞、プロ野球はテレビ…

元ニューズウィーク日本版編集長の竹田圭吾氏(故人)は、東洋経済オンライン(2015年9月11)でこう書いていた。

「テレビの情報番組や報道番組にコメンテーターとして出演するようになって10年以上たつが、そもそもの話、この原稿の執筆依頼を受けるまで、テレビメディアに『スポーツジャーナリズム』という概念や意識が存在すると思ったことはほとんどなかった。

市民の権利と便益を守るために、権力監視の立場から客観対象を公正・中立かつ批評的に報道することをジャーナリズムと定義するならば、それを行うにはテレビはスポーツやスポーツビジネスと一体化しすぎているからだ」

相撲はNHK、大谷のドジャース中継もほぼNHK BSの独占。高校野球は朝日新聞と毎日新聞。読売新聞はプロ野球チーム「巨人軍」を傘下に置く。民放テレビだけではなく公共放送も新聞もスポーツビジネスと一体化しているのだ。

竹田氏は野茂英雄が大リーグに移籍した当時、取材した経験をこう書いていた。

インタビューを受ける野茂英雄
インタビューを受ける野茂英雄(写真=Ryosuke Yagi/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

「驚いたのは試合後の会見で、日本から押し寄せたテレビや新聞の記者たちが、野茂に『31年ぶり史上2人目の日本人メジャーリーガーになった気分は?』と繰り返し尋ねたことだ。

野球ファンや野茂自身にとってその日最も重要なことは、野茂がどんなピッチングをし、それを大リーグの選手やコーチや野茂自身がどう評価したかであって、歴史に名前を刻んだことではない。案の定、会見場に座る野茂はずっと『なんでそんなバカなことを何度も聞くの?』という表情をしていた。

もし大谷が故障したら、メディアはあっさり見限るだろう

当時の日本のスポーツマスコミが、その試合の後もずっと野茂を社会現象としてのみ扱ったわけではない。ただし『海を越えた挑戦』という部分にニュースバリューを置く島国根性と、競技そのものの魅力をありのままに伝える意識の希薄さが日本のメディアを覆い続けていることは、ゲームの内容などそっちのけで日本人選手の成績だけを断片的に伝える『注目選手至上主義』的な報道がいま現在も行われていることをみればわかる」

繰り返しいうが、大谷は百年に一人の逸材であることは間違いない。しかし、この国のメディアの報道のほぼすべては、大谷が本塁打を打ったのかどうかだけに集中していて、人間・大谷を取材する努力を怠っているように思える。

彼の元通訳だった水原一平が起こした違法賭博事件の際も、水原の違法行為はこれでもかというほど大量に報じたが、二十数億という巨額なカネを自分の口座から盗まれていたことをチェックできなかった、大谷側にも問題はなかったのかを問うメディアは、私が知る限りなかったと思う。

このままいけば、私のように、この国で大谷を少しでも批判する者は「非国民」といわれかねない。

だが、万が一、大谷がまた故障をして、これまでのような活躍ができなくなったら、日本のメディアはあっさり大谷を見限り、次のスーパースターを探すために離れていってしまうのだろう。