進行を約5カ月遅らせる効果がある

レカネマブの治験で示されたのは、18カ月(1年半)の投与で日常生活の質を評価する指標「CDR」の低下が27%抑制されることです。これはアルツハイマー病の進行を約5カ月遅らせることに相当します。

これまで、どの新薬候補もここまでの効果は示せませんでした。その点で、レカネマブは確かに画期的な薬です。ただし、日常生活の質の悪化を27%抑制する、あるいは症状の進行を約5カ月遅らせる効果を、一般の方が効果として実感するのは難しいはずです。

しかし18カ月ではわかりにくいですが、時間が経過するほど薬の効果を実感できるようになる可能性があります。軽度認知障害から初期の認知症へ進行する期間、中等度の認知症に進行する期間、高度の認知症に進行する期間を、それぞれ2~3年遅らせるといわれています。

ご注意いただきたいのは、治験の結果として示されたのは「平均」の数字である点です。どんな薬にもいえることですが、効き目には必ず個人差があります。

私も治験や日々の診療で、多くの患者さんに対してレカネマブを用いた治療をしていますが、驚くほどよく効く患者さんもいれば、残念ながら平均に満たない効果しか見られない患者さんもいます。レカネマブが特に効きやすい人、あまり効かない人を分類する手法の開発も今後の課題です。

認知症のイメージ
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被験者の13%に脳のむくみが表れた

Q.レカネマブにはどのような副作用がありますか?

レカネマブの副作用の中で重篤なのは脳浮腫と脳出血です。いずれも症状が出るとすれば、頭痛、錯乱、ふらつき、視覚障害、めまい、吐き気、歩行困難、異常言動などです。

通常は症状を引き起こさないものの、頭部MRIで見つかる異常をアミロイド関連画像異常(Amyroid Related Imaging Abnormalities:ARIA)といいます。血管に付着しているアミロイドβが、レカネマブのような抗体の作用により引き剥がされる際に血管が傷むことで生じます。

治験によればARIA-Eと呼ばれる脳浮腫(脳のむくみ)は、レカネマブを投与された人の13%に表れます。ほとんどの患者さんに症状はありません。症状を伴う脳浮腫は2.8%の人に表れますが、その場合は投与を中断します。再度MRI検査を行い、症状が改善すれば投与を再開します。