約1600人中3人が脳出血で亡くなった
ARIA-Hと呼ばれる脳出血はレカネマブを投与した17%の人に表れました。多いと思われるかもしれませんが、注意していただきたいのは偽薬(プラセボ。有効成分を含まない薬)でも9%発生している点です。実はアルツハイマー病の患者さんはもともと脳出血を起こしやすいのです。
ARIA-Hが表れたケースのほとんどは血がにじんだ程度の小さな出血で、患者さんは無症状でした。0.7%は症状のある出血で、この場合、症状が治まるまで休薬します。
これらの副作用のほとんどは投与をはじめてから14週以内に起きます。その間、注意深く患者さんの状態を観察し、2回はMRI検査を行って異常がないか観察します。
なお治験では、レカネマブの副作用との関連が強く疑われて脳出血で命を落とされた方が少なくとも3人報告されています(被験者数は約1600人)。いずれも緊急性のある脳梗塞、心疾患により血液を固まらせにくくする薬、もしくは血の塊を溶かす薬を投与された方でした。
危険因子を持つ人は副作用が出やすい?
アルツハイマー病を発症するリスクを高める遺伝子は、レカネマブの副作用を考える上で重要な意味を持ちます。というのも、ApoE遺伝子(※)について父母から受け継いだ2対がともに4型、つまりApoE4を持つ人は副作用が3~6倍起きやすいことがわかってきたからです。レカネマブの治験中に脳出血でお亡くなりになった3人のうち2人の方はApoE遺伝子の両方が4型でした。
※3種類の遺伝子多型(2、3、4型)が知られており、日本人の85%は3型のApoE3。アルツハイマー病の危険因子は4型のApoE4
レカネマブの投与をはじめるにあたって遺伝子検査を希望される場合は、ApoE遺伝子の型を調べて、両方が4型の場合はそのリスクを十分に説明して、同意を得た上で治療をはじめます。
ただしこの遺伝子検査には倫理的な問題があります。
ApoE遺伝子4型の片方を持つ人の子どもは50%の確率で4型を引き継ぎ、両方の4型を持つ人であればその子どもは100%の確率で4型を1つ引き継いでしまいます。患者さんご本人の副作用のリスクを知るための検査ですが、検査の結果次第で、その子どもは自分がアルツハイマー病を発症するリスクが高いことを知ってしまう可能性があるのです。
したがって、遺伝子検査を受けることは、患者さんご本人の問題だけでなく、その子どもへの影響が生じることも考える必要があります。
全体の副作用を計算すると、レカネマブ投与によって症状を伴う副作用が発生するリスクは約3%です。つまり、レカネマブは絶対に安全な薬とはいえません。しかし適切に使えば、決して危険性の高い薬でもありません。