都知事選で無党派層にもっとも支持され、2位に躍進した石丸伸二氏。1000人以上の政治家や企業経営者に話し方を教える岡本純子さんは「常に怒りながら叫び、3位に沈んだ蓮舫候補に比べ、コミュニケーション戦略の視点で石丸候補は卓越していた。ただ、さまざまな話術を駆使して有権者の心をわしづかみにしたが、一部メディア対応で見せた“本性”に引いてしまうファンも多いだろう」という――。

実はトランプに似ている「石丸ブーム」は一過性ものなのか

「何か政治にうねりを起こしてくれそうだから」

東京都知事選の投票日の前日、麻布十番の駅前で、ペットだというフクロウを手にして、石丸伸二候補の街頭演説を聞き入っていた若い女性は、彼を支持する理由をそう表現した。

都内各所で開かれた集会にはどこも多くの人が集まり、石丸氏に対して激励の声をかけるなど、熱心な「ファン」のような人も目立つ。「彼なら変えてくれるのでは」そんな熱い期待を持っている人が多いことがうかがえた。

コミュニケーション戦略の視点で分析すると、今回の「石丸現象」にはいくつもの要因が浮かび上がる。

① まずは、やはり、わかりやすい勧善懲悪のストーリーを作り上げたことだ。居眠りする安芸高田市議らを「老害」として描き出し、徹底した対決姿勢を見せることで、世直しのために声を上げる「正義の味方」としてのポジショニングを確立。そうしたやり取りを積極的にSNSで発信し、それが、政治の腐敗や長老支配にへきえきする若年層の心をとらえた。ファンが自発的に、映像を切り取り、石丸氏をヒーロー化・神格化するかのような動画を量産。それが瞬く間に、拡散していった。

② 今回の知事選も、同様の構図だ。今回の仮想敵はいわゆる「政治屋」。そうした既得権益を持たない自分だけが、閉塞した事態を打開できる救世主であるかのように打ち出した。これはトランプが「自らは政治家ではなかった」「(大統領選出馬は)私利私欲のためではない」ことを強調した手法とよく似ている。

2011年2月10日、ワシントンD.C.のCPACで講演するドナルド・トランプ
2011年2月10日、ワシントンD.C.のCPACで講演するドナルド・トランプ(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

③ アピールポイントは無党派層にも刺さりやすい「経済」だ。自分がエリート銀行員のアナリストとして、アメリカで経験を積んだこと、そして広島県の安芸高田市で市長を経験したことなどを挙げ、「経済」と「行政」を知る人間だとアピール。そのうえで、「経済を知る初の都知事として、東京を経済都市として成長させていきたい」と強調した。