早くも馬脚「権力を与えたらもっと横柄になる」

④ 遊説では意図的に、対立候補への批判を抑えたことが、若年層に支持された側面もある。淡々と自分の実績や変化の必要性を訴えるにとどめ、圧倒的に個人攻撃が少なかったのも特徴的だった。

これは、現職である小池百合子に徹底的な対決姿勢で臨んだ蓮舫氏との違いを際立たせる戦略とも考えられる。議員に対して、「恥を知れ」などと詰め寄ったYouTube動画の攻撃的なイメージとは打って変わったマイルドで「紳士的」で「冷静」な彼の振る舞い。「批判」を嫌うと言われる若年層の間に、「ギャップ萌え」を感じた支持者がいてもおかしくない。

東京都知事選で落選が決まり、敗戦の弁を述べる石丸伸二氏=2024年7月7日夜、東京都新宿区
写真提供=共同通信社
東京都知事選で落選が決まり、敗戦の弁を述べる石丸伸二氏=2024年7月7日夜、東京都新宿区

⑤ 街頭演説では柔和な表情で若々しく、爽やかで、親しみやすいイメージを演出した。「怒り」を前面に押し出した蓮舫氏に比べると、序盤の口調は意外にもソフトで穏やか。後半にかけて、エネルギーを上げ、盛り上げていくスタイルで会場を沸かせた。具体的な政策は「動画を見て」とほとんど語らないので、一回当たりのスピーチは短く、簡潔だ。結果的に、都内各所で機動的に数多くの辻立ちをこなすことができ、支持の輪を広げた。

⑥ スリムで無駄のない体躯から、効果的なボディランゲージを多用した。例えば、手の平を上にして、前に大きく差し出す。これは、聴衆との一体感を醸成するポーズだ。終始、適度な大きさと頻度のジェスチャーで、堂々と、落ち着いた印象を与え続けた。

⑦ 彼のスピーチの最大の特徴は、聴衆に自己効力感や責任感を植え付ける工夫だ。「私が○○します!」「一票をお願いします」という「売り込み臭」や「お願いモード」を排除し、聴衆を主語にして、その行動を呼びかける。「みんなの力で日本を立て直しましょう」「自分自身に期待をしてみてください」「その力は小さくない」「みんなの力で東京を動かしましょう」「都民の奮起に期待します」「私たち世代が責任をもってこの国を立て直し、次の世代にいい形で渡してあげるしかない」といったように、その奮起を促したのだ。政治に絶望感を持つ層を勇気づけるレトリックだった。

このように、選挙戦の随所に埋め込まれた「応援したくなる」仕組みが、今回の「旋風」に結び付いたと考えられる。

一方で、選挙後早々の会見でメディアに逆質問をしまくり、食って掛かる対応が早くも、「パワハラっぽい」と論議を呼んでいる。ネット上では「パワハラそのもの」「本性出た。権力を与えたらもっと横柄になる」など早くも馬脚を現したと見る向きも多い。

自分の主張を一方的に展開する、相手を攻撃する場面では、強みを発揮しても、対話やチームワークには極端に弱い側面があるようにも見受けられ、この調子では、ブームが一過性のものになる可能性も少なくない。