「赤いキツネと緑のタヌキ」のキツネの失敗
他方、この戦いでは、「蓮舫氏が、自滅」し、石丸氏が自動的に浮上したという側面もあるだろう。当初は「赤いキツネと緑のタヌキ」などと揶揄され、激烈な女性同士の戦いになると注目された。しかし、筆者が7年前に「『怒りながら叫ぶ女』はどうして嫌われるのか 小池百合子氏と蓮舫氏には決定的な差がある」の記事中で、分析したように、蓮舫氏は残念ながら、コミュニケーション上、致命的な弱点を抱えている。
それは、女性の場合、「怒る女」は「怒る男」以上に徹底的に嫌われる、ということだ。
リーダーシップには、competence(有能さ)と、warmth(温かみ)の2つの要素が必要である。
この2つがバランスよく高い人が優れたリーダーということになるのだが、男性の場合、ある程度の「有能さ」が示されれば、「温かみ」についてはさほどなくても許される。多少冷たくとも、それは冷静さや決断力と解釈され、「温かみ」がないことはさほどのマイナス要因にはならない。
ところが、女性リーダーにとって「温かみ」の欠落は死活問題。少しでも怒りを見せれば、「ヒステリック」「気が強い」とラベルを貼られるのだ。まさにヒラリー・クリントンは同じ理由で大統領選を敗退した。
小池百合子氏の熟練の戦術と話術
筆者は小池氏のコミュニケーションについても散々、研究してきたが、その強みは、決して怒りを見せないことだ。言葉の選び方、オーラの作り方、場のさばき方など、さまざまな工夫が凝らされ、確固たる計算に基づいて戦略的にコミュニケーションが行われている。今回の勝利は、始まる前から自明の理だった。
対峙する蓮舫氏はそうしたハンデを抱える中で、選挙戦の戦略も完全に取り違えていたと言わざるを得ない。「小池氏が討論会に出てこない」など些末な点を繰り返し、いつもの「批判ばかり」のイメージを増幅させた。
遊説では、応援弁士たちが40分近く感情的に自らの苦境を訴えたり、都政・国政批判を繰り広げた後に、ようやく本人が登場するいわゆる従来型のスタイル。暑い中、待たされる身も辛いし、コア支持層、党派色満載で、無党派層は興ざめすることは間違いなしだった。
立憲民主党の菅野志桜里氏はXで「共産党の存在をベースにした独特のフェス感が一般市民への浸透を妨げていた」と指摘。千葉県の熊谷俊人知事も、同じくXで「共産党とタッグを組んだことは選挙戦術としては理解しますし、共産党の政策は(私たち行政サイドから見ると無理筋でも)それ自体は否定されるものではありませんが、中間層・保守層はついていけません」と表明したが、まさに、同じ思いを抱いた人は多かったことだろう。
選挙戦とは、本人の話し方、メッセージ、印象マネジメントから、集会の開き方まで、まさに膨大なコミュニケーション戦略の蓄積の上に立つ心理戦・情報戦だ。単なるSNSの活用や党や組織としての集票活動で総括される単純なものではもはやなくなっている。今回の都知事選の投票率は、前回を5.62ポイント上回り、60.62%に達したという。
せっかく目覚めた若年層や無党派層の関心をこれからどう維持するのか。コミュニケーション戦略の観点からも、確かに新しい「うねり」を感じさせる興味深い選挙戦だったといえるだろう。