さらに、公的年金は老齢年金だけでなく、遺族年金や障害年金といった万一のときの保障も備えている。

特に厚生年金の場合、遺族年金、障害年金ともに国民年金からの基礎年金と厚生年金の2階建てになることもあり、基礎年金しか受け取れない国民年金加入者(自営業者など)より手厚い補償が受けられる。たとえば遺族厚生年金では、一般的な収入のサラリーマンが亡くなったとき、遺族が妻と18歳未満の子ども1人の場合だと遺族年金の合計額は160万円程度にもなる。また、国民年金加入者は子どもがいないと遺族基礎年金を受け取れないが、厚生年金なら子どもがいない妻でも遺族厚生年金のほうは受け取れるしくみになっている。

また、障害厚生年金の対象範囲は国民年金の障害基礎年金より広く、うつ病など精神疾患でも認定されれば年金を受け取れ、年金の対象にはならない軽度の障害でも一時金をもらえるしくみもある。

なお、20歳以上の人は公的年金に加入していないと障害年金を受け取れない。大学生の子がいるなら、20歳になったら国民年金の加入手続きを忘れないことだ。学生には保険料納付が猶予される学生納付特例制度があり、親が子の保険料を払った場合は全額が所得税の控除対象になる。

さて、これだけの機能を備えた年金商品を民間で開発したらどうなるか? 大手生保会社の人に聞いてみたところ、「保険料は厚生年金の自己負担額の3倍でも足りない」という答えだった。

公的年金は、われわれの老後の生活を支える柱であることは間違いない。公的年金制度がなくなるときは国が滅びるとき、と言っても過言ではないだろう。ただ、平成11年、16年の大きな改定を含め、公的年金制度は平成以降、改悪を繰り返している。支給開始年齢の引き上げ問題についても、まだ議論が続いているのが現状だ。

公的年金の問題は国民の誰にとっても人ごとでない。そのことを念頭に置いて、自らウオッチし、これ以上の改悪を許さない姿勢が必要だろう。

※すべて雑誌掲載当時

社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー 北村庄吾 
ブレインコンサルティングオフィス代表。「年金博士」の名で知られる。年金をはじめ社会保険制度やサービス残業などの問題に鋭くメスを入れる評論家としても活躍中。
(構成=有山典子)
【関連記事】
年収別に試算「一体、手取りはどれだけ減るのか?」
年金、お一人様……問題山積の老後生活
生活保護支給額が国民年金より高いワケ
小遣い月7万円!年金+αのシニアパートの働き方
「年金144万でも充実」家計見直し法