15年間続けた業態改革が奏功している

6月27日、東京証券取引所の終値で、日立製作所の時価総額は16兆9420億円に達し、ソニーグループ(16兆8938億円)を抜いて国内第4位の時価総額企業となった。今回の動きは、日立がこれまで目指してきた、自社の業態改革が奏功している証左といえるだろう。

日立製作所の小島啓二社長(2023年4月3日)
写真提供=共同通信社
日立製作所の小島啓二社長(2023年4月3日)

リーマンショック以降、日立は思い切った自社の改革に着手してきた。同社は、これまでの重電から家電までを扱う総合電機メーカーから、脱炭素、デジタル分野を中心とする業態へ事業ポートフォリオを入れ替え、積極的に会社の形を変える努力を行ってきた。

同社の改革のスタートは2008年度にさかのぼる。2009年3月期、世界経済の失速によって日立の業績は悪化した。当時、「このままでは生き残り困難」との危機感から、同社トップは子会社の売却など構造改革を断行した。それによって得た資金を、デジタル化と脱炭素などの分野に再配分した。業態転換が功を奏し、AI業界の成長に伴って株価は上昇した。

今後、AIの成長で、世界全体で企業を取り巻く事業環境は加速度的に変化するだろう。現在、日立トップはAIを事業戦略の根幹に据え、エネルギー、インフラ整備、脱炭素などの需要創出に取り組む方針と考えられる。同社の今後の展開は、わが国企業が「AIの世紀」の本格到来に向けて対応することへの重要な示唆を示している。

世界的な「スマホ→AIシフト」の象徴

約9年ぶりに、日立製作所の時価総額はソニーグループを上回った。それは、世界経済の成長の牽引役がスマホからAIへのシフトを反映した変化ともいえる。

リーマンショック後、世界的にスマホはヒットした。“インスタ映え”といわれるようにSNSに鮮明な写真をアップするために、スマホのカメラ機能は向上した。その分野で、ソニーはモノづくりの力を磨いて業績の回復につなげた。ソニーは、“CMOSイメージセンサー”市場で世界トップのシェアを獲得した。足許、ソニーはCMOSイメージセンサー市場で47.9%のシェアを持つ。2位は韓国のサムスン電子の18.1%だ。

スマホのヒットをきっかけに、世界全体でデジタル化(DX)は加速した。SNSのプラットフォームと金融ビジネスを結合して個人の信用力を格付けするサービス(フィンテックの一つ)などは増えた。

消費者分野だけでなく産業分野でもDXは加速した。工場の省人化や自動化、サプライチェーンの管理、配送電網の効率化など、センサーやIT機器を用いた“見える化”に取り組む企業は増えた。