重厚長大な設備を手がけるよりも安定性は高い
デジタル分野では“ルマーダ”と呼ばれるサービスを開発した。ルマーダを基盤に、エネルギー分野ではパワーグリッド(デジタル技術を活用し電力需給を調整するシステム)事業を育てた。2018年12月、スイス重電企業ABBのパワーグリッド事業の買収を発表した。
インフラ分野では、センサーなどIoTの機器を用いたメンテナンスなどの提供体制を整えた。鉄道車両の運行状態を常に把握し、適切なタイミングで保守点検をおこなう。発電所などの重厚長大な設備を手がけるビジネスと比較すると、収益の安定性は高まるだろう。
IoT技術を活用することでエネルギーを効率的に活用し、脱炭素につながる提案も可能になった。ルマーダは企業の供給網全体での二酸化炭素排出量の可視化も可能にした。2021年、インフラ事業とルマーダの相乗効果を高めるために、日立は仏電子機器大手タレス社から鉄道信号関連事業を買収すると発表した。
株価上昇の背景に「AI時代のパワーグリッド需要」
2025年3月期、売り上げ収益に占めるルマーダの割合は29%に達する見込みだ。成長期待から株価は上昇し、6月下旬、時価総額はソニーを上回りわが国第4位に上昇した。
重要なポイントは、AIで既存の産業構造が急速に変化していることだ。世界の産業界全体でこれまでの常識や既成概念がくつがえるパラダイムシフトが起きつつあるとの見方もある。わが国の企業の中でも、日立はそうした変化にうまく対応できていると評価する主要投資家は増えた。
送配電事業の収益増加期待が高まった。AIの成長にデータセンターの増加は欠かせない。半導体業界の専門家によると、AIの学習に使う画像処理半導体(GPU)の電力消費量は高いようだ。GPUは発熱量も多いという。学習とデータセンターの冷却で電力需要は増えると予想される。
ただ、電力供給体制の整備は一朝一夕に進まない。限りある電力の有効活用に、日立のパワーグリッド需要は増加する可能性は高い。そうした展開を見据えて日立は2027年までに45億ドル(1ドル=161円で7245億円)の設備投資を実施し、関連する機器の生産能力を引き上げる方針を示した。