本当は十数万円の費用がかかるところが数千円で済んだ

以上のような動きを受けて、海外ではグーグルやアップルなどの大手スマホメーカーが「修理する権利」に対応し始めている。グーグルは公式サイトで、自分で修理するためのマニュアルなどを詳しく掲載している。アップルにも「セルフ・サービス・リペアー」という英文サイトがある。

一方、日本では「修理する権利」について具体的な議論が乏しい。そのため、消費者が自ら修理するのは容易ではない。

作業手順の情報が非公開となる中、個人が電子機器の修理に挑んでも、例えばバッテリーを外さず作業して感電トラブルが起こることもある。見よう見まねの作業は、電子回路などを傷つけ、回線がショートして発火のリスクもある。

だが、リスク承知でうまく修理できれば新品への買い替えを回避でき、修理費は必要な部品の実費だけだ。不具合の原因が特定できねば修理はできないが、推測できる場合、修理に必要な内部構造や作業手順の情報は、ネット上の“詳しい人”たちが実践している動画を探して参考にすることも可能だ。ただ、公式な情報ではなく私的なサイトなので、リスクがあり自己責任ということになる。

ノートパソコンを修理する手元
写真=iStock.com/golubovy
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筆者は十数年前に購入したパソコンを最近、自力で修理した。動作が遅くなって待機時間が長くなり、いったんは使用をあきらめた。ストレージを確認すると、HDDを搭載していた。SSDに交換すると生き返るかもしれないとわかり、同じ機種でHDDをSSDに交換した人がいて、インターネット上の動画で交換作業を公開しているのを見つけた。それを参考に、数千円で購入したSSDに交換すると、パソコンが爆速によみがえった。当初は使用パソコンの廃棄処分と10万円前後の新品への買い替えも検討したが、わずか数千円の費用と手間だけでパソコンが生き返り、いまも快適に使用している。

もともと、日本の家電は品質が良く、海外メーカーに比べ不具合の発生がかなり少ない。

家電業界コンサルタントで、家電に詳しいクロス(東京都港区)の代表・得平司さんは「国内の主要な家電メーカーは、販売後1年内くらいの不具合に自社負担(無料)で対応している。修理の経費をかけても、故障の発生率が低いためそのような措置にしている。だから日本では『修理する権利』の意識が薄く、何か問題が起きると、すぐメーカーに(対応をお願いします)となる独特の慣習がある」と話す。

だが、その一方で「メーカーは修理するより、新しい製品に買い替えてもらったほうがいいので、(保証期間外の)修理費を高くして、消費者が新品を買うように仕向けられている可能性もある」(同)。

会社に修理に依頼をする傾向があるのは部品供給の問題もある。家電には半導体が多く使われ、基本はメーカーに送り返して修理してもらうのが一般的。これは「半導体基盤などの部品はメーカーにしかない」(得平さん)という事情もあるのだ。