ユーザーが「修理する権利」の法制化が進んでいる
欧州連合(EU)理事会と欧州議会は2024年2月、「修理する権利」を導入する指令案について、暫定的な政治合意に達した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、家電などの製品が故障しても、消費者が修理サービスを利用するのではなく買い替えを選ぶことが多いのを改めるため、指令案は消費者の修理する権利とその実現の施策を規定した。今後、EU加盟国が国内法化後に適用開始になる。
この「修理する権利」とは、どういうものか。これまではメーカーや公認の修理業者が事実上、製品の修理を独占し、競争原理が働かない形で部品や修理費用を設定することが多かった。それを、ユーザー自身で修理するか、自ら選んだ業者に頼んで修理する権利のことを指す。
メーカーが製品の修理に必要な部品や作業手順の情報を独占し、部品などを適切な価格で提供せず、消費者が修理する権利を妨げているとされ、それを見直そうという動きが出てきているのだ。
情報を独占した理由。それはメーカーにとって修理収入がおいしい商売だったからに他ならない。複雑な機器を修理するには一般的に、機器内部の情報や修理手順、機材が必要となる。例えば、アップル社のiPhoneは一般的なプラスのドライバーでなく、専用の星形のドライバーがないとネジを外せないケースも多い。
メーカーはこうした情報を公開せず、メーカーか正規代理店のみでしか修理できないようにしている。競争相手がいないため、修繕費が非常に高い。結果的に消費者は、修理を諦めて廃棄処分にして、新製品を買わざるを得ないことが多いのが実態だ。
しかし今後、修理する権利が認められ、必要な情報が公開されると、メカニックに詳しい人でなくても自分で修理するケースや、正規代理店以外で修理の依頼を低コストでできるケースが増えてくる。メーカーがボロ儲けする時代が変わろうとしているのだ。
今までは廃棄処分になって新製品に買い替えられていたのが、機器の寿命が延びて、消費者にはありがたい世の中になると同時に、地球環境にも優しい時代にもなる。
このような“DIY修理”の道を開いたのはアメリカも同じで、州ごとに導入を進めている。
たとえば、マサチューセッツ州は2012年、「自動車所有者の修理する権利法」を制定し、メーカーに必要な書類と情報の提供を義務づけた。
ニューヨーク州は2023年7月施行の法律で、同州で販売されるスマホやパソコンなど電子機器の修理手順の情報や交換部品などをメーカーが手ごろな費用で提供することを義務づけている。
バイデン大統領も2021年7月に競争促進の行政命令に署名し、修理する権利の制限禁止などを盛り込んでいる。