肝いりの水上開会式「プランA」
選手の宿泊施設となるいわゆる「選手村」は、パリ北部のサン・ドニ、サン・トゥアン・シュル・セーヌ、リル・サン・ドニに接するセーヌ川の河岸につくられましたが、外観はおよそパリのイメージではありません。オリンピック後は、住宅とオフィスに改装されるとのこと、東京五輪の元選手村「晴海フラッグ」の3割以上に居住実態がない、というニュースの二の舞いにならないといいのですが。ただしそうですね、フランス流といえば、育児室がこの選手村には開設されるらしい。オリンピック史上初だそうです。
そしてこれも史上初と言われるのが、セーヌ川での水上開会式です。
感染症対策からうまれたアイデアでありながら、無料の観覧ゾーン(チケット制)も設けられ、約30万人の“大規模”開会式としてそれなりに個性を見せるでしょう。約6キロにわたる川下りを選手たちがするなかで、ちょっとしたハプニングもプラスの味わいになる。パリ五輪の公式スローガンである「Games wide open」(広く開かれた大会)は、開会式が成功すればほぼ完遂となるはずです。
だからこそ警備システムには注目が集まるわけですが、そこは肝いりの「プランA」。開幕前から約4万5000人の警察と憲兵隊に加え、民間警備員約2万人などの動員があるらしい。昨年末には、マクロン大統領が「プランBやプランCなども当然ある」と述べることで、たとえ水上から地上になったとしても盤石な体制であることを強調しています。
セーヌ川の大掃除はコスパが悪すぎる
ですが、この水上での開催こそ、世紀の「上司は思いつきでモノを言う」系のプランではないか。
なにしろプログラムで期待される“サプライズ”が水回りになるので、ふつうの発想だと「泳ぐ」か「飛び込む」かの二択と言っても過言ではありません。お家芸のファッションセンスの見せ場としては難しく、飛び込む水場も「道頓堀より数倍汚い」と言われるセーヌ川です。スポーツ競技の本懐である健康をリスクにかけた、命がけのサプライズになってしまう。
今も付け焼き刃いえ急ピッチで下水工事が進められているようですが、セーヌ川をどこまで大掃除するか。これはプラン時当初には思いもしなかったタスクでしょう。なにしろコスパが悪すぎる。どこまでやっても成果を示せるとは思えません。事実、市当局も「オリンピックで水泳競技をするには、セーヌ川は汚すぎる」と明かしています。先日の「ル・モンド」によると、6月10日から16日の水質検査では、「4カ所の異なる場所で、大腸菌の数値が推奨される基準値を超えていた」そうです。
要するに、「水上開会式」がいかにイメージ先行で決定されたか、ということですね。
五輪となるとパフォーマンス先行型になってしまうのは、どの国も大差ないのかもしれません。「健康よりスポーツを優先させた」と叩かれた東京五輪が何かしらのクスリになってないことだけは確かです。