空き家率が不動産価格や家賃に与える影響は小さい
一部の人たちは、空き家によって不動産価格が大きく下落すると主張している。例えば世田谷区の住調の空家数が多いことで、世田谷区の不動産価値が下落すると主張している。
しかし、筆者の2017年の論文「地域の空き家率が家賃に与える影響」や2018年の論文「地域の共同住宅空室率が中古マンション価格に与える影響」では、地域の空き家率が家賃や中古マンション価格に与える影響は限定的であることが示されている。
例えば、家賃は、東京23区では空き家率が1%上昇したとき0.13%下落し、福岡市では0.06%下落する。中古マンション価格は、東京23区では地域の空き家率が1%上昇したときに0.12%下落する一方、福岡市では0.75%上昇する。
最近は、コロナ禍による新築着工の減少や、東京圏への人口流入の増加、インフレ傾向などもあり、家賃もマンション価格も上昇傾向にあるが、そうした社会情勢による家賃・不動産価格の変動に比べれば、空き家率による影響は極めて小さい。
もし空き家率が家賃や不動産価格に影響を及ぼすとしても、そもそもの空家数が過大に算出されている可能性が高いということを考慮すれば、例えば世田谷区の家賃や不動産価格が下落するという予想はおそらく高い確率で外れるだろう。
「空き家を活用して移住促進」には無理がある
さまざまな地域で、さまざまな空家対策が行われているが、地域社会にとって空家は結果であり、原因ではない。
空き家が増えたから地域の活気が失われたわけではなく、人が減って、それが空き家を生み、同時に地域の活気を失わせた。
不動産価格も家賃も同じで、空き家が原因ではなく、人が減ったという事象が空き家を生み、不動産価格と家賃を下落させた。空き家が直接不動産価格と家賃を下落させたわけではない。
このような同じ一つの原因から生まれる複数の結果に関係があるように見えることを疑似相関という。だとすれば、地域の空き家をゼロにしても、基本的には地域はなにも変わらない。
地域の空き家を利活用しようとする取り組みもあるが、地域の古民家や旧宅等の利活用と、単なる古家では状況が全く違う。40年以上前の旧耐震物件の古家は、耐震性や断熱性、間取りや外観デザインなど、現代の水準ではとても積極的に住もうと思えるものではない。
そうした古家をどうにかするよりも、移住者を集めるなら新築住宅を供給するほうが、効果があるだろう。
そして、とても人が住みたいと思えるようなものではない古い空き家は、利活用を考えるよりも積極的な滅失を促進すべきだろう。