政府が欠陥を抱えたプランを持ち出してきた理由

皇位継承問題をめぐる国会での合意づくりが難航している。その原因は、ここで述べたように自民党などが議論の土台にしようとしているプラン自体が、あまりにも大きな欠陥を抱えているからにほかならない。

では、政府がこのような疑問だらけのプランを持ち出してきた理由は何か。

そもそも皇位継承の未来が不安定化している背景は、今の皇室典範が抱える「構造的な欠陥」による。その構造的な欠陥とは、とっくに排除された側室制度があってこそ持続可能性を期待できた明治以来の「男系男子」限定ルールを、“一夫一婦制”の下でも見直さずに維持しているミスマッチだ。しかも、しばらく前から“少子化”というトレンドが加わっている。これでは行き詰まるのは当然だ。

京都大学准教授の川端祐一郎氏は、今後も「男系男子」限定ルールをそのまま維持した場合、生まれる子供数の平均を現在の合計特殊出生率の1.20より多めの1.5人と仮定しても、平均寿命を81歳と見て皇室の現状を踏まえると、早くも西暦2086年に皇統が途絶える可能性が最も高い、とシミュレーションしている(『表現者クライテリオン』令和4年[2022年]3月号)。

にもかかわらず、政府はその欠陥ルールをあたかも不動の前提のように扱って手をつけず、それによって規定された天皇陛下から秋篠宮殿下、さらに悠仁親王殿下へという今の皇位継承順序が“変更されない”範囲内で、事態の打開策を探ろうとしている。これでは、まともなプランを導けるはずがない。

皇太子と傍系「皇嗣」の違い

一部に誤解があるようだが、秋篠宮殿下はあくまでも傍系の「皇嗣」であって、「直系」の皇嗣=皇太子・皇太孫ではない。

皇嗣とは皇位継承順位が第1位の皇族を指す。しかし同じ皇嗣でも、傍系の皇嗣と天皇のお子様で皇嗣いらっしゃる「皇太子」や、皇太子が不在の場合に皇嗣たるお孫様がおられた場合の「皇太孫」などとは、お立場が異なる。

その違いを簡単に列挙すると以下の通り。

皇太子は次の天皇として即位されることが確定したお立場。これに対して、傍系の皇嗣は“その時点”で皇位継承順位が第1位であるお立場にすぎない。
実際、過去にしばらく昭和天皇の弟宮の秩父宮が傍系の皇嗣だったものの、皇太子(上皇陛下)がお生まれになったために、その地位が変更された実例がある。
理論的・一般的に考えても、直系の男子が誕生すれば当然、これまでの制度のままでも、傍系の皇嗣は“皇嗣”でなくなる。
目の前の現実を見ても、秋篠宮殿下は天皇陛下よりわずか5歳お若いだけ。なので不測の事態でも起きないかぎり、次の天皇として即位されることはリアルに想定しにくい。