998年、紫式部は父の友人の貴族・藤原宣孝と結婚する。歴史評論家の香原斗志さんは「父の赴任に伴って福井に移住したものの、紫式部には結婚時期を大きく逃しているという焦りがあった。だから年上で子持ちであっても、藤原宣孝との結婚を決意したのだろう」という――。

「越前で紫式部に宣孝が求婚した」は史実ではない

父である藤原為時(岸谷五朗)が国守として赴任するのに同行し、越前(福井県東部)に赴いたまひろ(吉高由里子、紫式部のこと)。NHK大河ドラマ「光る君へ」の第23回「雪の舞うころ」では、そこに遠縁で為時の友人でもある藤原宣孝(佐々木蔵之介)が訪ねてきた。

紫式部を演じる吉高由里子さん(左)と紫式部の父、為時を演じる岸谷五朗さん=2024年3月7日、滋賀県高島市
写真=京都新聞社/共同通信イメージズ
紫式部を演じる吉高由里子さん(左)と紫式部の父、為時を演じる岸谷五朗さん=2024年3月7日、滋賀県高島市

そして、宣孝はまひろに向かって、「会うたびにお前はわしを驚かせる」「わしには3人の妻と4人の子がおる。子らはもう一人前だ。官位もほどほど上がり、これで人生もどうやら落ち着いたと思っておった。されど、お前と会うと違う世界が垣間見える。新たな望みが見える。未来が見える。まだまだ生きていたいと思ってしまう」などと言葉を投げかけた。

その挙句、単刀直入にこう告げたのである。「都に戻ってこい。わしの妻になれ」。

たしかに宣孝は以前から、「越前まで唐人を見に行きたい」という発言はしていたようだが、越前まで足を運んだという記録はない。訪れることはなかったと思われる。また、当時の貴族が女性に求婚する場合、このように直球を切り出すことはなかった。

とはいえ、史実の紫式部も、任期をあと3年残している父を越前に残し、たった1年余りで都に帰り、宣孝と結婚するのである。