3つ目は、「昔からの価値観や習慣が変えられない」。窓を開けて自然の風を入れる、庭先に打ち水をする、暑ければ扇風機を使う……。「夏の暑さは、そうやってしのぐべきもの」という価値観が根強く、これまでの習慣がなかなか変えられない高齢者も少なくありません。「これまで、エアコンなしでやってきて問題がなかった」「去年もそれで大丈夫だったから、今年も大丈夫なはず」と考えてしまうわけです。

これら3つが複雑にからまって、「周りがいくら言ってもなかなかエアコンを使わない」ということになってしまうのです。

正論で説得しようとしても効果はない

こうした高齢者には、正論をぶつけて説得しようとしても、なかなかうまくいきません。

「温暖化が進んで、昔に比べて夏の気温が上がっているんだから」「高齢者は熱中症になりやすいし、毎年亡くなる人も多いから」……。子供が、こうした正論を伝えて、エアコンを使うように親を説得しようとしても、実際はなかなか行動の変化には結びつきません。

一般的に、人間の行動を変えるには「アメ」と「ムチ」を考える必要があります。「行動を変えると、こんなにいいことがある」という報酬(アメ)を渡すか、「行動を変えないと、こんなに悪いことが起きる」という罰則(ムチ)を課すか、ということです。

たとえば「○○をしてはいけない」と、行動を禁止するときには、ムチが有効です。一方、行動を促すには、アメのほうが効果的です。

高齢者のエアコンの問題は、行動を禁止するのではなく、行動を促すほうなので、アメのほうが効き目があると考えられます。「エアコンをつけないと熱中症になってしまうぞ」と脅かしても響かないのです。

それよりも「エアコンをつけたら、こんなにいいことがあるよ」と、アメを渡すことを考えたほうがいい。

そのためには、自分の親にとって、何が「アメ」=「ご褒美」になるのかを考えてみるといいでしょう。何が「アメ」になるのかは一人ひとり異なりますが、例えば、こんなことが考えられるでしょう。

子供や孫と会う約束をする

特に、離れて住んでいる高齢者にとっては、子供や孫と会うのは、楽しみなことではないでしょうか。「子供や孫と会う」ことを「エアコンを使って元気でいること」の報酬にすることで、行動を促す方法です。

「お盆に帰るときまで元気に過ごしてほしいから、部屋の温度計が28度以上になったらエアコンをつけて、体調に気を付けて」「○月○日に子供と会いに行くから、熱中症にならないように毎日エアコンをつけてね」

こういった「会う約束」をすることで、「じゃあ熱中症にならないように、エアコンをつけて元気に過ごそうか」といった行動につながりやすくなります。

リモコンでエアコンを操作する人の手元
写真=iStock.com/yuruphoto
※写真はイメージです