「お金目当ての人」は離れていく

起業家にとって「夢からはじめること」「ビジョンを持つこと」が不可欠です。技術や人材、組織、お金は、後からついてきます。「儲かりそうだなぁ」と参画してくるメンバーは、うまくいかなくなると離れていきますが、ビジョンでつながったメンバーは簡単には離れません。

山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)
山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)

またビジョンがない起業家は、うまくいかないときにぶれてしまいがちです。

会社はお金を儲けるために存在するのではありません。お金はビジョンを達成するための手段に過ぎないのです。

イソップ童話に3人のレンガ職人の話がありますが、もう1名足して4名のレンガ職人がいたとします。旅人が職人に出会い、「何をしているのか」と聞いたところ、次のような答えが返ってきました。

A「レンガを積んでいるんだ」(その瞬間の作業としかとらえていない)
B「壁をつくっているんだ」(その次のステップ、途中経過に過ぎない)
C「教会をつくっているんだ」(最終形を把握しているが、その理由、目的にたどり着いていない)
D「苦しんでいる人を救う場所をつくっているんだ」(真の意義、パーパスを理解している)

もし新たな素材が発明され、レンガが無用の長物になれば、Aの職人はきっと何もできなくなるでしょう。しかし、Dの職人にとって「レンガを積むこと」は手段に過ぎないので、変化に対応できるでしょう。

ビジョンを理解し、共有する

NASAで清掃員をしている人に、「あなたの仕事は何ですか?」と聞いたところ、「世界の真実を知る手助けをしているんだ」と答えた、というエピソードがあります。

彼は、NASAのミッション、ビジョンを理解し、共有しています。そのうえで自分の仕事に邁進まいしんしているのです。

NASA
写真=iStock.com/LaserLens
「あなたの仕事は何ですか?」NASAでは清掃員もズバッと答える(※写真はイメージです)

私は日々、起業家と接していますが、この「ビジョン」を外から注入することはできないと感じます。

何のために自分は起業するのかを自覚すること、夢を、ビジョンを思い描くこと、それこそがこの時代を生き抜くために最も重要なのです。

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