多くの国民に「気づき」を与える効果
このようなイギリス王室の広報活動は、同じく立憲君主制を採る北欧(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)やベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)などの王室にもすぐに採用された。各国は競ってSNSに参入し、君主をはじめ王族たちの日々の活動をアップすると同時に、彼らが取り組んでいる慈善活動も詳しく紹介した。
イギリスを筆頭とするヨーロッパの王室が関わる団体は、自然環境の保護、野生動植物の保護、都市環境の整備、老人福祉、障がい者福祉、青少年の育成、貧困の撲滅、医療の進歩、科学技術の振興など、ありとあらゆる分野に及んでいる。近年では多文化共生社会の実現や幼児虐待の防止、LGBTの権利擁護など、最先進の問題に積極的に取り組んでいるのもヨーロッパ各国の王室なのである。
現代社会においては、これら新たなる問題や「病」もクローズアップされるようになっている。しかし多くの人々がそういうことを知らずに過ごすことが多い。ここで国民から信頼や人望の厚い王族(たとえばイギリスのキャサリン皇太子妃など)がそのような問題に積極的に関わっていたり、病に苦しむ人々の施設を訪れたり、そのような人々を支援する団体を激励したりすれば、国民の多くに「気づき」を与えることになる。
政府のお役所仕事で賄いきれない部分を、王室が補う
21世紀の現代では、政治や外交、軍事や経済の実質的な部分は、これらヨーロッパの立憲君主国においては、政府やプロの外交官、軍人らにすべて任され、君主や王族がこれに直接的に関与する機会は減っている。
しかしそれと同時に、現代の政府は対処しなければならない問題があまりに膨大すぎて、どうしても「手からこぼれ落ちて」しまう課題が出てくる。残念ながらその大半が、社会的な弱者の救済という問題なのである。
ヨーロッパ各国の王室は、王族自身が関わる団体での活動を通じて、いま彼らがなにを一番欲しているかを生の声で聞くことができ、またそれにすぐに対処できる。文字どおりの政府のお役所仕事では賄いきれない部分を、王室が補っているのである。
こうした王族らの活動を示すとともに、人知れず苦しんでいる人々の存在を、とりわけ若い世代に知らしめているのがSNSを通じての広報なのである。
それはヨーロッパを越えて、他の地域でも見られる現象である。比較的民主化が進んでいるとはいえ、もともと男尊女卑の気風が強い中東地域においても、ヨルダンのラーニア王妃は積極的に女性や女子のための活動に邁進している。
国内に女性のための職業訓練学校を作る一方で、ユニセフの親善大使も務め、まさに世界中を駆け回っている。そのようなラーニア王妃のインスタグラムも、フォロワー数は実に1000万人を超えているのだ。