「王族は贅沢な暮らしをするばかり」という人々の誤解

このとき国民の多くが、社会的な弱者のために慈善活動をおこなっているのはダイアナだけで、他の王族は贅沢な暮らしをするばかりであると「誤解」していた。

エリザベス二世女王陛下。2011年撮影、2012年公開の公式ポートレート
エリザベス二世女王陛下。2011年撮影、2012年公開の公式ポートレート(写真=Julian Calder for Governor-General of New Zealand/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

女王は自分たちの真の姿を知ってもらおうと、広報活動に積極的となっていく。1997年から立ち上げられた王室のホームページを充実化させ、21世紀に入ると、ユーチューブやツイッター、そしてインスタグラムにも参入し、王族たちの日々の活動を最新の写真入りで紹介した。

これを見て多くの国民が驚いたのである。80歳をとうに超えていたエリザベス女王が、実に600以上もの各種団体のパトロン(後援者)を務め、年間に300を超す公務に勤しんでいたのだ。

女王より5歳年上の夫エディンバラ公爵も、2017年夏に96歳で公務からの引退を決めたとき、なんと785もの団体のパトロンを兼ねていた。しかもそれらは決して「お飾り」ではなく、女王も老公もこれらの団体の総会やレセプション、資金集めのパーティーなどにフル稼働で出席し、毎日「はしご」で公務をこなしていたのである。

最後の別れを告げる英国民が長蛇の列を作った

こうした広報活動の成果は15年かかって人口に膾炙した。ダイアナ事件から15年後の2012年、国民はエリザベス女王の在位60周年記念式典(ダイヤモンド・ジュビリー)を盛大に祝い、この86歳の偉大なる君主に敬意を表した。

それは10年後の在位70周年記念式典(プラチナ・ジュビリー)でさらなる盛り上がりを見せたが、同じ2022年9月に女王は96年の生涯に幕を閉じることとなった。女王の棺が安置されたウェストミンスター・ホールには、最大で24時間以上も待って最後の別れを告げる国民の姿も見られた。

そのような人々にテレビのインタビュアーが「なぜこんなに長く並んでいるのですか?」と尋ねると、次のような答えが返ってきた。「女王はその生涯を私たちのために尽くしてくれました。だから女王にお礼を言いたいのです」。

ダイアナ事件のあとに、女王がそれまでどおりの生活を続け、イギリス王室とはなにか、女王の仕事とはなにかを国民に知らしめるための、新たな広報活動を怠っていたならば、このような現象は起こらなかったであろう。

女王の棺に別れを告げるために並んでいたのは年配の人々だけではない。文字どおりの老若男女すべての国民が、SNSなどを通じて、彼女の生涯を通じての国民への「奉仕」に感謝するために夜を徹して並んだのである。