喫煙者は減っているが肺がんが増えているワケ
間違い7 禁煙すれば肺がんにならない
少量の酒が「百薬の長」と評価されている一方で、タバコは、約200種類の有害物質を放出するなど、「健康被害をもたらす」というマイナス評価で一致しています。とはいえ、「百害あって一利なし」とまでは断言できないのではないかと、私は考えています。
タバコにも「一利あるかも」と考える背景の一つに、私自身のこんな経験があります。私の友人の祖父は愛煙家で、82歳で肺がんが見つかって、医師からも「手遅れ」と匙を投げられました。家族からも喫煙を反対されましたが、「タバコをやめて、ストレスをためるくらいなら」と一時やめさせられていた喫煙を再開したところ、見違えるほど元気になって、92歳の長寿を全うしたのです。
私が勤務していた医療機関に併設した老人ホームでも、高齢者を10年追跡調査しましたが、喫煙者と非喫煙者で死亡率に差はありませんでした。「タバコをやめるべきかどうか」と相談された場合、60歳よりも若い人なら、生存する可能性も考慮して、禁煙をおすすめするかもしれません。しかし、子どもが独立した人なら、余生を自由に生きる選択をしてもいいでしょう。
人生はただ長生きすればいいわけではありません。質も重要です。「タバコで一服」という「憩いのひと時」が人生でかけがえのないものなら、余命と引き換えにしても、タバコを吸い続けたい人はいるでしょう。
ところで、皆さんは、タバコよりも厄介な「肺がんのリスク」が、知らぬ間に忍び寄っていることをご存じでしょうか。日本人の肺がんはかつて、ほとんどが「扁平上皮がん」でした。扁平上皮がんは、主に気管支に発生する肺がんの一種で、タバコが要因です。そのため、日本人の喫煙率が下がりだすと、それを追うように、10〜15年で扁平上皮がんによる死亡者数は約3分の1に減ったのです。
それなのに、肺がん死全体は減るどころか、右肩上がりに増える一方です。中でも、目立って増加したのが「腺がん」という種類の肺がん。気管支の先端に無数にあって、酸素と二酸化炭素のガス交換を行う「肺胞」という微細な器官に多発します。タバコの煙に含まれる発がん物質は、気管支の奥の肺胞までは届きにくいので、“真犯人”は別にいるようです。まだ解明されていませんが、「PM2.5」や自動車の排気ガスの微粒子といった大気汚染物質が、おそらく要因でしょう。
日本では、行政や建設業者が癒着して、既得権益を守るために必要とは思えない道路工事を繰り返し、大気汚染物質を拡散させています。警察は過剰な交通規制によって、至るところで車の渋滞を引き起こし、大量の排気ガスを発生させています。それらこそが、毎年7万人以上もの日本人の命を奪っている肺がんの要因かもしれないのに、野放し状態です。