今度は「歩行をためらうエスカレーター」を設置

その重大な責任を感じているのかは不明だが、今回の大阪万博では自ら作った因習を打破しようとする奇妙な試みが行われるという。

それは万博の開幕に先駆けて25年1月末に開業する大阪メトロ夢洲(ゆめしま)駅で、「片側空け」をさせないように誘導するエスカレーターを導入するというものだ。

万博会場の最寄り駅となる同駅では、会期中、1日当たり約12万6000人の利用者が想定されている。電車は2分半間隔で到着するため、多くの来場者がホーム中央の3台並列の上りエスカレーターに集中することは必至だ。そこでいかにホーム内の人の滞留を抑止し、エスカレーターに効率良くかつ安全に利用客を誘導するかが重要な課題なのだという。

では、具体的にどのようにするのか。

「片側空け」をさせないよう誘導するエスカレーターを開発した日立および日立ビルシステムによると、その試みとは、エスカレーターに仕込んだ複数のLED照明によって、歩行をためらい両側に立つ行動を利用者に呼び起こそうとするものらしい。

はたしてこれに効果は期待できるのだろうか。日立ビルシステムの広報担当者によれば「すぐに大きな変化は起こるものではないかもしれないが、利用者にちょっと意識していただくきっかけになれば」とのことである。

「夢洲駅」向けに開発した新機能を搭載したエスカレーター(イメージ)=日立製作所、日立ビルシステムのプレスリリースより
「夢洲駅」向けに開発した新機能を搭載したエスカレーター(イメージ)=日立製作所、日立ビルシステムのプレスリリースより

なぜ鉄道各社はこうも及び腰なのか

これは「ナッジ理論」を応用したものらしい。ナッジ理論とは、行動経済理論のひとつであり、人の意思決定や行動を強制や指示ではなく、「そっと望ましい方向に促す」ことで変容させるものだという。

例えばトイレに貼られている「いつもきれいにお使いいただきありがとうございます」や、コンビニのレジ前の床に列の方向と間隔を示すために描かれている「足跡」が、これに当たる。

条例でも変えられないことから、このような手法が試されることになったのだろうが、それ以前に、鉄道各社の対策は、はたして十分になされてきたと言えるだろうか。

以前、私は駅係員にエスカレーター片側空けの解消をなぜもっと積極的におこなわないようアナウンスしないのか尋ねたことがある。しかしその際の返事は「おっしゃるとおりなのですが、やはりお歩きになりたい方もいらっしゃるので……」という、なんとも腰の引けたものであった。

じっさいJRのある駅で流れている自動音声も「歩行は思わぬ事故の原因となるためご注意ください」というものだ。これを聞けば「気をつけさえすれば歩いてもよい」と勘違いする人もいるだろう。なぜ鉄道各社は、片側空け対策にこうも及び腰なのだろうか。