オタクを「冴えない」「ダサい」から「クール」にしたい

クルーズさんはアニソン歌手以外の顔も持つ。昨年、特撮ドラマを主に日本のポップカルチャーをテーマとした出版社「モズ」を設立し、今年1月に刊行第一弾として『決定版ジャスピオン図鑑』を発表した。3月には80、90年代に日本とブラジルで発売された雑誌、玩具、VHSなどを展示した「ジャスピオン展」を7日間にわたって開催し、約2300人を動員。ブラジルの特撮オタクを熱狂させた。

30、40代のブラジル人の憧れであるジャスピオン関連グッズが展示された
筆者撮影
30、40代のブラジル人の憧れであるジャスピオン関連グッズが展示された
ジャスピオン愛好家を招いてのトークセッション。右側がクルーズさん
筆者撮影
ジャスピオン愛好家を招いてのトークセッション。右側がクルーズさん

なぜクルーズさんはブラジルでの活動を続けるのか。

長らくオタクには“冴えない”“ダサい”あるいは“キモい”などネガティブなレッテルが貼られてきた。海外で使われる英語の同義語「nerd(ナード)」にも“まぬけ”“社会性のない人”という意味があるので、蔑まれてきた環境は日本と同じようだ。

「でもいまではオタクがクールな存在なんです」とクルーズさんは近年、日本のポップカルチャーに対しての認識が、世界で変わりつつあることを喜ばしく語る。

Netflixなどの配信サービスが普及する前の地上波放送全盛のころ、ブラジルではアニメや特撮ドラマは、子供番組の枠で放送されていた。ブラジルでも日本のポップカルチャーは“子供じみたもの”“いつかは卒業すべきもの”として大人から蔑まれてきた。

「14、15歳の成長期には、同じマンションに住んでいる友達から『お前、いつまでチェンジマン見てんの?』ってバカにされたこともあったし、オタクじゃない友達が家に遊びに来るときには、大量の特撮の本やビデオを戸棚に隠そうとしたこともありました」

クルーズ青年にも特撮ヒーローマニアでいることが恥ずかしかった時期があった。

好きなものを極め続けることは恥ずかしいことではない

「それでも当時の僕は毎日が特撮漬け。学校以外では特撮ドラマを見ているか、東洋人街に特撮の本を探しに出かけているかのどちらかでした。僕が初めて買った大人向けの特撮本は『超人画報』で、今でもバイブルとして持っています。1996年から語学学校で日本語を習ったんですが、授業後に特撮の本を見せながら先生を質問攻めして困らせていましたよ。当時、親戚の集まりにはまったく顔を出さなかったので『あいつ日本の特撮ばっかり見ていて大丈夫か?』って叔父さんに心配されました」

そんな周りの声をよそに、両親は特撮一辺倒のクルーズさんを温かく見守った。

「特に母とは一緒にアニソンを楽しんで聞いていました。『次はサンバルカンが聞きたいわ』ってよく言ってくれました」

いつしか、世間広くからは認めてもらえない自分の好きなものを極めることを恥ずかしいとは思わなくなった。今は亡き母親は、自らが特撮・アニソン一直線の道を歩むにあたって大きな支えだった。

在りし日の母クレイゼさん(中央)。2003年にブラジルを訪れた特撮の歌手や俳優を手料理で招いた。左から4人目がクルーズさん
©Ricardo Cruz
在りし日の母クレイゼさん(中央)。2003年にブラジルを訪れた特撮の歌手や俳優を手料理で招いた。左から4人目がクルーズさん