必要なのは本音をぶつけることではない

では、どうすればよいのでしょうか?

それは「傾聴する」ことです。つまり、部下が気をつかうことなく話せるような雰囲気を作り、ただ純粋に部下の話に耳を傾けることだけをするのです。

間違っても「まずはオレから腹を割って話そう」などと考え、上司が本音をさらけ出す必要はありません。むしろ、部下が上司とは違った考えを持っていた場合に、本音を言いにくくするのがオチです。上司が自分の意見を無闇に「ぶつけて」はいけないのです。

曽和利光『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30 なぜこの言い方がNGなのか』(WAVE出版)
曽和利光『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30 なぜこの言い方がNGなのか』(WAVE出版)

さらに意識しておかねばならないポイントがあります。たとえ本人から「これが本音です」と何かを聞き出せたとしても、それは「その人の主観でしかない」ということです。人が自分のことを完全に理解するのは難しいこと。本人が「本音」だと言うことが必ずしも本当の考えだとは限らないのです。そんな中で「本音」を捻り出させたところで、ただの思い込みや勘違いくらいしか出てこないこともあるでしょう。

ですから上司は部下の意見を聞くだけではなく、部下の行動を丁寧に観察します。「聞く」だけではなく「見る」のです。

結局のところ人の本音とは、その人が「何をやるか」の中に隠れているものです。日々部下をきちんと見ていれば、あえて聞かずとも「本音」は推測できるはずです。

双眼鏡を持つ手
写真=iStock.com/AUNG MYO HTWE
※写真はイメージです

「自分のことを見てくれている」がホメ言葉

実際、若い人が自分の上司を賞賛するときの常套句が、「あの人は自分のことをきちんと見てくれている」です。会社が定めた1on1ミーティングや定期評価の面談などでその場限りの形式的な「傾聴」を行なったとしても、それだけでは足りません。部下は「“日常的に”自分に関心を払ってくれている」上司を求めています。自分に関心を持ってくれない上司に心を開く部下がいるでしょうか。

私はよく人事コンサルティングで評価報酬制度設計などを行なうのですが、多くの会社で「上司がいかに部下のことを見ていないか」がわかります。部下の状態を記述してもらっても、具体的なことが何も出てこないからです。ちゃんと関心を持っている上司は、部下についての記述が極めて具体的です。