それまで2019年を目指していた出荷時期は、2021年に後ろ倒しとなった。秋頃にはマクラーレンとの提携を打診するが結実せず、マンスフィールド氏はやむなく、EV本体の製造を優先事項から外した。自律走行システムの開発に軸足を移すプランだ。ハードウェアを担当していた数百人規模のメンバーがプロジェクトを去り、テック・クランチによると、内部からは「信じられないリーダーシップの失敗」との批判が上がったという。

またテック・クランチは、タイタンは2018年を迎えるころには5000人規模の巨大プロジェクトに成長していたが、翌年には200人以上を解雇するなど迷走が続いたと指摘。2020年からのコロナ期には前掲のカヌー社とのパートナーシップを探っていたが、話し合いは決裂したという。その後もパートナー探しは難航する。

交差点
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日本の自動車会社が大注目された

イギリス最大規模の技術情報サイトであるテック・レーダーは、ドイツのフォルクスワーゲン、韓国キア自動車、日本の大手自動車企業、そして韓国LGなどと交渉し、いずれも結実しなかったと報じている。

自動車産業には大手メーカーをトップとする、明確なヒエラルキーが存在する。その頂点に立つ既存メーカー各社としては、Appleブランドの下で自社が設計や製造を受託することに、強い抵抗があったようだ。パートナー探しに失敗したAppleは、クルマという同社にとって経験のない分野において、研究開発からロジスティクス(部品調達)までをすべて手がける難題に突き当たった。

ほか、開発方針の度重なる変更も災いしたようだ。当初、あらゆる環境での完全自動運転を実現する「レベル5」を目指していたが、その後「レベル4」に引き下げ。さらに今年1月には、ドライバーが乗り前方注意義務を負う「レベル2」プラスアルファへと縮小した。テック・クランチは、「アップルは1年たりとも、具体的に何を作りたいのか、維持できた試しがなかった」と指摘する。

こうした開発上の難題とは別に、EV市場自体がAppleにとってすでに魅力を失っていた事情もある。中国BYDなどの新興メーカーに押され、Teslaのイーロン・マスク氏は欧州や中国市場で値下げを迫られている。米フォードやゼネラル・モーターズなど大手も、揃ってEVの生産拡大の見直しに出た。高品質・高利益率をモットーとするAppleにとって、EV市場はすでにブルーオーシャンではなくなっていた。

米ビジネス誌のフォーチュンおよびブルームバーグによると、Appleのジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)らが今年4月27日、最終的に約2000人が従事していたタイタンの中止を社内に伝達。チームメンバーには動揺が走ったが、多くは社内のAI部門に移籍し、生成AIなどの開発に今後注力するという。