「パートナー探しに苦戦した」という指摘も

Appleはすでに、スマホとシームレスに連携する自動車向けインフォテイメント「Apple CarPlay」を普及させている(インフォテイメントとは、情報と娯楽を提供する車載システムの総称)。また、iPhoneの地図アプリ「マップ」用に世界各地の地図データを保有しており、すでにiPhoneはナビとして機能する。

EVの中核となるバッテリーでも、規模こそ異なるものの、MacBookやiPhoneで経験を積んだ高効率のバッテリー管理技術がある。後にiPhone 12 Proから搭載することになるLiDARスキャナ(自動運転にも使われる周囲の物体の把握技術)とも、結果としては相性がいい。自動車プロジェクトの未来はバラ色に思えた。

米有力技術メディアのテック・クランチによると2014年、クックCEOはプロジェクト・タイタンを正式に承認。当時のAppleは、フォードやメルセデス・ベンツなど自動車業界からヘッドハンティングを行い、社内のエンジニアと共に本社外にあるオフサイト拠点で勤務するチームを結成したという。

チームが注力したのは、パートナー探しだ。新規分野を開拓する際、まずはその業界の優良企業とタッグを組むのがAppleの流儀だ。テック・クランチは、クック氏自らBMWの施設を視察したほか、委託製造を請け負う業者にもコンタクトを取っていたと報じた。

駐車中の車の背面図
写真=iStock.com/Fahroni
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徹底的に秘匿された計画

Appleの未発表情報に詳しいAppleInsiderは同年3月、関係者による情報としてEV開発棟「SG5」の実態を報じている。冒頭のSUVが目撃されたのと同じ、クパティーノに隣接するサニーベールのエリアだ。SG5には「自動車作業エリア」や「修理ガレージなど」の屋外施設が確認でき、タイタンの中核施設のひとつであった可能性があるという。

敷地内にある別の建物はシックスティーエイト・リサーチ社の所有となっているが、検索しても同社の情報はほとんど見つからない。Apple情報サイトの9to5Macは2016年、「開発の秘密を守るため、アップルはカリフォルニア州サニーベールに拠点を置くシックスティーエイト・リサーチというペーパーカンパニーを利用しているとみられる」との記事を掲載している。社運を掛けたタイタンの存在が、いかに徹底して秘匿されていたかを物語る。

責任者が去り、メンバーが解雇される

だが、2016年になるとApple社内でも、迷走するタイタンに意見が割れるようになった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事によると、フォード出身のエンジニアであるスティーブ・ザデスキー氏がプロジェクト責任者を降り、ジョブズ氏の下でテクノロジー担当副社長を長年務めたボブ・マンスフィールド氏が継いだ。

プロジェクトは600人規模に膨れ上がっていたが進捗は芳しくなく、iPhoneやMacのデザイナーとしてID(工業デザイン)チームを率いてきたジョナサン・アイブ氏は、前年から同年の状況に「不快感」を示したと報じられている。社内でも不協和音が響き始めていたようだ。