死角を利用して見せたくないものをしまう
●いつ、だれが来ても「大丈夫!」と言える家
仕事柄、クライアントにイメージをつかんでもらうために、ときには自宅でも打ち合わせをします。また、建築やインテリアの雑誌の取材者など来客も多く、そのままついでに打ち合わせをすることもあります。
このような仕事上の必要性もあって「いつ、だれが来ても大丈夫な家」にしたかったのですが、それを可能にするために、私は、フォーカル・ポイントを利用して、積極的に見せる場所と、死角を利用して見せたくないものをしまう場所を、間取りに反映させました。
じつは、これが家族にとっての住み心地のよさを手に入れる鍵にもなりました。
すなわち、いつ来客があってもいいように、「日常的に見た目をよくする意識」を持つことで、住まいの機能性と精神的満足を両立することができたのです。
●ダイニング・テーブルが中心となる住まい
当時は、夫も私も仕事が忙しい時期でした。まだ小さかった子どもたちの食事も、勉強も、そして家族の会話も、ぜんぶダイニング・テーブルで行えるようなリビング・ダイニングなら、一緒に過ごせる短い時間を有意義に使えるのではないかと思い、そこを家の「中心」にしようと思いました。
「場」をきちんと設ければ、そこにいる時間が増えます。するとおのずとコミュニケーションも活発になります。
小学生だった子どもたちが高校生、大学生、社会人になり、コミュニケーションのありかたは変わっていきましたが、ダイニング・テーブルはその間、家族がともに過ごす場として立派に活躍してくれました。
住まいが支える家族のつながり
私は、自宅の設計で得た効果をクライアントにも実感してもらいたいとの思いから、提案する設計のなかにこれらの要素を盛り込んでいます。
たとえば、小さな子どもがいるクライアントには、ダイニング・テーブル中心の住まいを提案するという具合です。
しかし最近では、中高年にこそ、「ダイニング・テーブルが中心の住まい」をすすめたいと考えるようになりました。
子どもたちが独立し、夫婦ふたりだけの暮らしがやってきたとき、家族のコミュニケーションのありかたは変わります。
子どもを介してなんとなくつながっていたお互いの存在を、改めて見つめ直すようになるでしょう。そのとき、家族が集まる場だったリビング・ダイニングのリセットが必要になります。
これまでのリビング・ダイニングは、子どもを中心に一家が集まり、にぎやかな場所だったかもしれません。そして昼間の時間は、妻だけの砦だったかもしれません。
そこがこれから先、ふたりで多くの時間を過ごす場所となるのですから、新たな使いかたに合わせて変えたほうがよいと思うのです。
新婚当時に戻ったように、「一日中、何をするのも一緒」という夫婦は、実際のところ、そう多くはないでしょう。