必修科目の憲法では「国務大臣の権限を論ず」などの出題が

司法科の筆記試験は必修科目と選択科目に分かれている。必修科目は憲法、民法、商法、刑法から1科目を選択する。また、選択科目は哲学、倫理学、心理学、社会学、国史、国文及漢文、行政法、破産法、国際公法、民事訴訟法、刑事訴訟法など様々なテーマの中から2科目を選択するようになっていた。

ちなみに、昭和8年(1933)の試験問題が現存しているので一例を紹介すると、必修科目の憲法は「国務大臣の権限を論ず」「租税に関する憲法上の原則を論ず」、民法は「信託行為を説明すべし」「民法第四百十六条を説明すべし」という出題がされている。また、選択科目の国際公法は「条約は如何にして成立するか」「戦争が通商に及ぼす影響如何」、民事訴訟法は「訴の客観的併合を説明すべし」「判決の既判力を説明すべし」というものだった。記述式で問いに対する深い理解や知識が求められている。

無事に筆記試験をパスしたが、口述試験は女子の合格例なし

受験直後には泣き崩れてしまったが、無事、筆記試験に合格した嘉子は二次の口述試験へと進む。筆記試験では判断のできない対応力や言葉の説得力が求められる。試験官と向きあって会話形式でおこなわれる試験は、引っ込み思案な者にはかなりのプレッシャーだ。

筆記試験に合格した者ならば簡単に解るような解答が、とっさに答えられずしどろもどろになったりする。失敗要因の大半はそれだろう。アクシデントに対して即応力を欠くところを露呈してしまった嘉子は大丈夫だろうか。

前年の試験で、当時は明大法学部に在学中だった田中正子が筆記試験に合格したのだが、この二次試験で不合格となり涙を飲んでいる。彼女も緊張で上手く答えられなかったのか? 『華やぐ女たち女性法曹のあけぼの』(佐賀千恵美/金壽堂出版)のなかで、筆者が田中本人にそのことについて質問したところ、

「いいえ普通に答えられました。私は当然、受かると思っていました。不合格だったのでびっくりしました」

このように語っている。本人にとってはまさかの結果、落とされた理由がわからない。試験官たちも、初の女性受験者に戸惑いそれが採点に影響したのではないか? となれば、嘉子たち女性の受験者にとってこれはかなり不利になる。