AIやロボットに代替不可能な業務とは
仕事が機械化・自動化することによって、これまで人が担っていたタスクがロボットなどにシフトしていくだろう。ただし、AIやロボットによる代替が不可能な業務も数多く残り、そうした業務に人は集中することになる。機械化・自動化が進んだあとに人間がすべき仕事はなんなのか、この点に注目する必要がある。
まず、人と直接触れ合う対人業務は、相対的に必要なタスクとして残りやすい業務となる。
医療や介護の分野では、これまで多くの時間を割いていた日々の記録業務や周辺的な事務仕事から解放され、利用者や患者との1対1の会話に多くの時間を割くことができるようになる。結果的に医療・介護の質の向上につながっていくだろう。
接客・販売業務も同様に、対物業務が減少することで本来の業務である顧客とのコミュニケーションの時間が増える。こうした接客の領域の仕事に就いている人はもともと利用者との触れ合いのなかにやりがいを見出している人も多く、事務仕事から解放されることでモチベーションを高める要因にもなる。
また、ロボットやシステムを管理する業務も増えていくと思われる。物流倉庫では現場で作業をする人員の一部が、管制室などから遠隔でモニタリングする業務に需要がシフトしていくだろう。
建設現場ではアナログで図面などの書類を見ながらおこなっていた作業が、タブレット端末などを利用してBIM(Building Information Modeling:3次元の建物のデジタルモデルに、施工に必要なさまざまな情報を集積したデータベース)上で操作しながら資材などを管理するかたちに変わっていく。
医療・介護現場でも、紙に記載していた記録業務を、音声入力技術の進歩などによってデジタルに管理することができるようになる。こうしたシステムを構築し、管理・運用する業務は増えていくだろう。
自動化が進みやすい職種、進みにくい職種
最後に、業務の自動化が進みやすい職種とそうでない職種を考えてみたい。
本研究プロジェクトにおいて、私たちは生活維持サービスの各分野で先端的な取り組みを進めている主要企業50社以上にヒアリングをおこない、デジタル技術やAI、ロボットの活用によって各職種の業務構造が将来にわたってどのように変わっていくかを聴取した。
現場の最前線で働いているビジネスパーソンたちから、現実問題としてどのような業務を将来的にAIやロボットが担うようになるのか、また将来にわたって人手に頼らざるをえない業務はどういった領域なのかを聞いている。
各業界で機械化・自動化に取り組んでいる企業にヒアリングをおこなった結果、自動化が進みやすい職種と進みにくい職種をまとめた。
将来にわたって、人が担うタスクがどの程度自動化されるかの正確な予想は難しいが、関係者の話をヒアリングしていくと、現状の延長線上で自動化が難しい職種は、医療、介護、建設などである。一方で、生産工程、運輸、事務・営業などは自動化の期待が相対的に高かった。
自動化の進捗が期待される生活維持サービスの職種としてまず挙げられるのは、生産工程である。製造業については、産業機械の高度化などから、これまでも断続的な生産性向上が進められている。こうした動きは今後も堅調に進んでいくものとみられる。
さらに、自動化の期待が高かった職種としては、運輸関連が挙げられる。同業界では、2024年問題をはじめとする深刻な人手不足に直面するなか、自動運転技術や高速通信技術の進歩によって、幹線輸送が自動化されることへの高い期待が見受けられた。
倉庫作業員の賃金水準も上昇するなか、物流倉庫の高度化も今後急速に進んでいくだろう。ただ、市街地における自動運転や顧客への受け渡しの完全無人化は難しく、ラストワンマイルに関しては今後、人手が集中するだろう。