省人化は賃金上昇につながる

自動化の進捗の程度によって、未来の日本の姿はガラッと変わるだろう。

何より期待されるのは省人化だ。省人化=「労働に対する需要が減少する」という捉え方があるが、これはその時々の経済環境によって変わってくる。

つまり、需要に比して労働力が豊富にあり、失業率が高止まりしている状況下であれば、自動化の進展がさらなる失業を生んでしまう。一方で、失業率が低く安定しており、恒常的に人手不足の状況にある経済構造下であれば(まさに今、これからの日本社会だ)、失業の発生という副作用なしの省人化による生産性向上は、経済全体の効率を大きく高めることになる。

日本経済が後者の状況にあることは明確だ。高齢化と生産年齢人口の減少が世界に先駆けて進む日本は、省人化のメリットをフルに活用できる状況になっている。徹底的な機械化・自動化は、労働供給制約を迎える日本社会にとっての福音なのだ。

省人化が進めば、労働者を取り巻く労働条件は改善するだろう。まず、現代人を苦しめている長時間労働から人を解放することにつながる。

自動化により人が担うタスクが減少していくことで、同じ生産量の仕事について、たとえば従来10時間かかっていた仕事を6時間で済ませられるようになる。すると、これまで長時間の仕事を強いられていた人も就業時間内に仕事を切り上げられるようになり、労働収入を損なわずに短時間労働への移行を望む人はその願いが叶えられる環境が実現する。

省人化は賃金にも影響を与える。これまで10人で行っていた仕事が8人でできるようになれば、従業員に支払う賃金を従来の水準の1.25倍に増やすことは理論的に可能だ。

もちろん、ロボットなど資本を導入する場合には資本コストが発生するし、生産性上昇の一部は企業や経営者の利益として計上されることになるだろうが、一定の割合が雇用者報酬として分配され、労働者の賃金上昇へつながることが期待できる。

省人化が進めば労働参加が拡大する

機械化・自動化による効果は省人化にとどまらない。これまで労働者が担っていた業務をロボットやシステムなどに任せることによって、労働者の心身の負荷軽減にもつながる。

IoT(Internet of Things=モノのインターネット)の普及などから、現場に入らずに遠隔での業務管理も広がっていくとみられる。労働者の負荷が軽減していけば、これまで労働に参加できなかったような人たちが労働市場に戻ってくる動きも出てくるだろう。

たとえば、運輸の現場でドライバーが担っている荷役の業務について、自動フォークリフトや自動搬送機が普及すれば、ドライバーは重い荷物の積み下ろし作業から解放される。住宅建設の現場では資材の運搬や建具の取り付けなどを機械化し、さまざまなタスクを無理のない仕事にしていくことができれば、高齢化が進む建設作業員の人手不足の緩和にもつながる。これまで人が担っていたきつい仕事をロボットに任せられれば、労働者の身体的な負荷は大きく下がるはずだ。

機械化による精神的な負荷軽減も期待される。働き方改革の進展による労働時間の縮減によって、多くの現場で業務時間内にこなさなければならない業務の密度は増している。同じ業務時間であっても時間内にこなさなければならない業務が増えれば、おのずと労働者の精神的なストレスは高まる。

たとえば、小売のレジ業務では、これまでは従業員の業務の遅れによって客からのクレームが発生することに悩まされていたというが、無人レジの導入によって手の空いた従業員が客が困ったときのアドバイザーになることで、そういった悩みが解消されたという。

こうした取り組みが普及すれば、心身ともに負荷の高い仕事が可能な人でなくても、社会の多様な人々が、それぞれ働きたいときに無理なく働けるようになるかもしれない。その結果、これまで働けなかった人の労働参加が拡大すれば、労働供給制約をゆるめることができるのだ。