この賃借人も、同じだったのでしょう。さらに自営ということもあり、仕事さえ入れば一発逆転で大丈夫! そんな希望的観測で日々過ごしていたに違いありません。

さてこの賃借人、家賃の支払い状況をみると、かなり長期間にわたって払ったり払わなかったりを繰り返していました。家計の収支バランスが崩れている期間が長いということであり、もはや経済状況の立て直しは期待できそうにありません。

消灯されて窓から光が差し込む安価なビジネスホテルの部屋
写真=iStock.com/ddub3429
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ただ1点、私には疑問に感じるところがありました。

それは、お子さんたちです。賃貸借契約から計算すると、お子さんは28歳と24歳。普通でいえば、すでに働いている年齢です。子どもの教育などにお金がかかる、ということもなさそうです。家族4人で経済活動をすれば、月々10万円の家賃は無理な金額ではありません。どうして滞納になるのか……そこが気になりました。

生活水準はなかなか下げられない…住み替えを怠ったツケ

何らかの事情で経済活動をしていないのか、それとも既に独立してこのマンションには住んでいないのか。それとも追いつかないくらいの借金があるのか……。

もし仮に夫婦2人で住んでいるのだとすれば、もっと狭い部屋に移りさえすれば問題は解決できる、そう感じました。

法的手続きに入っても、賃借人から連絡はありません。裁判手続きが進んでいくと知っても、人はなかなか動けないのでしょうか。何とかコンタクトをとって話をしたい、そう思っても、連絡があるのは10人のうちひとりいるかどうかです。

祈るような思いで、契約書に記載された携帯番号にショートメッセージを送ってみました。何日待ったでしょうか。2度ほど優しいメッセージを送った後、賃借人からの反応がありました。夜の7時を回っていたので、賃借人の仕事もひと段落ついていたのでしょう。すぐに電話してみると、話をすることができました。

賃借人:ご迷惑をかけてすみません……
 私 :いえいえ。滞納ってどうしちゃったんですか?
賃借人:なかなか仕事がうまくいかなくて
 私 :お子さんたちは? 経済的に援助してもらえないんですか?
賃借人:子どもたちは家を出て、それぞれの生活があるから……

思っていた通りです。お子さんたちは社会人となり、家からはすでに退去しているとのこと。夫婦ふたりなら、もっと狭い部屋でもいいはずです。

 私 :そうなんですね。これをきっかけに老後のこと考えていきませんか?
賃借人:老後……?

裁判の相手方から老後の話を切り出されたことに、賃借人は少し驚いた様子でした。