早く解決したい気持ちはあるのですが、重要なのはまたコンタクトが取れること。一方的に権利を強く主張するのではなく、「貴方のためを思っています」というスタンスを貫かないと、私の経験則上、交渉事は上手く行きません。
「がんばって引っ越します!」
1週間ほど経ったでしょうか。賃借人から電話がかかってきました。奥さんと話し合い、安い物件に転居することを決めたようです。まだ次の転居先は、見つかっていません。
私 :次が最後の引っ越しになるかもしれません。築年数が古い物件だと、高齢になって建て替えでまた転居になるかもしれません。そうなると大変なので、築古物件は気を付けてくださいね。
賃借人:あ……そこには気がつきませんでした……。
私 :ご自身の年齢と物件の築年数。しっかり考えて決めてくださいね。
賃借人:退去はいつまでに……?
賃借人は物件が見つからず、少し焦っているようでした。今回のように滞納額が家賃の5カ月を超えていると、間違いなく裁判所で明渡の判決が出てしまいます。そうなると自分から退去するのか、強制執行で出されるか、時間の問題。
ところが退去の日は、裁判の期日の前か後かでずいぶん変わってくるのです。もし期日より前に退去してくれれば、訴訟は取り下げとなります。「明け渡して」という訴訟を提起しているので、既に退去したため訴える利益がなくなるからです。そして期日までに取り下げると、そもそも「訴訟は起こされていなかった」扱いになります。
ところが裁判の期日まできてしまうと、訴訟は公開なので裁判所には記録を取りにきている人たちがたくさんいます。そのデータがどのように使われているのか、何のために記録しているのかは定かではありませんが、少なくとも良いことは何ひとつないでしょう。
だから同じ退去するならば、がんばって期日前に明渡して訴訟を取り下げる方が圧倒的に良いはずです。それを説明すると、賃借人から「がんばって引っ越します!」という力強い言葉が返ってきました。
一度上がった生活レベルは、簡単に下げられない
結局、賃借人は訴訟の期日前に新天地に引っ越しました。
迷惑をかけてしまったからと、夫婦で部屋の中をピカピカに掃除までして。引っ越しがあると一般的にゴミステーションが荒れるのですが、わざわざゴミの焼却場まで持ち込んで、マンションのゴミステーションには何も捨てられていませんでした。
「滞納分は分割で必ず支払っていってくださいね」
私がお伝えした言葉どおり、その後も毎月1万円ずつ支払ってきてくれています。