40~50代で「意欲」をうながす前頭葉が老化

脳にはさまざまな部位がありますが、なかでも私たちにとって重要なのは前頭葉です。大脳皮質と呼ばれる脳の表面部分のうち、40%程度を占める前頭葉は「人間らしい機能を担う部位」ともいわれます。

それは前頭葉が「感情のコントロール」、つまり怒りや不安などを処理してくれる役割を担っているから。加えて、もう1つ前頭葉には「意欲」をうながす役割があります。

脳の中でもこの前頭葉が老化すると、意欲が低下し、感情のコントロールに不調をきたします。

この前頭葉の老化も40代後半から表れ、50代で本格化する人がほとんどです。画像診断をすると顕著ですが、40~50代で前頭葉がどんどん縮んでいきます。

そう考えると定年を迎える65歳頃には、その劣化具合がどうなっているかは想像に難くないでしょう。

前頭葉が縮めば、意欲がなくなる。「好きな本や映画にどっぷり浸かる」のも億劫になるかもしれません。感情も劣化するのだから、新たな創作や物語にワクワクし、感動する機会も減っていきます。

「大学に入り直して、学び直す」のは、意欲が衰えていたら、なかなか面倒なことです。新たな学びの場に飛び込むハードルもうんと高く感じるでしょう。

「起業」のため、ビジネスシーズ(ビジネスの種)を探し、市場のニーズを掘り起こし、仲間を見つけて資金を集める、などという一連の活動も、確実に困難になっているはずです。

「65歳になった定年後に……」
「仕事が落ち着いたら……」
「いつか……」

のんきなことを言っているうちに、老化によって体力も意欲も感性も衰える。

カップを持って窓辺に立ち、外を眺める高齢男性
写真=iStock.com/whyframestudio
※写真はイメージです

気がつけばただただ年老いた自分の姿に愕然として、こう思うのではないでしょうか。

「もっと早く、やっておけばよかった」

やり残すことなく、一度きりの人生を存分に楽しみたかったら、65歳になってから始めるのでは遅い。

やりたいこと、少しでも気になっていることがあれば、まだ体力があり、脳が縮み切らず、意欲も感性も残っている50代の「今」始めるべきなのです。

リカバリーできる期間があるのも50代の強み

人生は実験である、と私はよく言います。

実験とは、それまでやったことがない何かを試す挑戦のことを指します。

失敗したら別の方法を試してみる。失敗したらまた別の方法。それでも失敗したら、さらにまた別の方法――。

こうして失敗を繰り返す中で、実験の精度が少しずつ上がり、成功に近づいていけます。

つまり、限られた人生という時間の中でやってみたいこと、成し遂げたいことがあるならば、あれこれ実験してみるのが正解です。言い方を換えると、充実した人生には、挑戦して失敗を繰り返すことが不可欠なのです。

失敗して、また新たな実験を試みるのには体力が必要です。まだ体力と意欲がある50代のうちに「やりたいことを始める」必要があると言ったのは、そのためです。

やりたいことをやり切る充実した人生を送るためにも、また、定年後の時間を存分に楽しむためにも、今から実験を繰り返して成功の精度を上げる。

失敗してもリカバリーできる50代のうちに、やりたいことを始めて、備えておきたいのです。