作家の業を抱える紫式部はちょっと意地悪だった
――改めて、紫式部はどんな女性だったと思いますか?
【辛酸】すごい才能の持ち主なんですけど、『紫式部日記』を読むと、怖いなという気もします。宮仕えをして、同僚の女性のことをいろいろ書いて「みんな、上司とやってますよ」と暴露したりとか、やはり面白い小説を書くだけあって、性格は悪いというか、ちょっと意地悪な人だったんだなと思いますね。
【大塚】『源氏物語』(筑摩書房)を全訳したとき、思ったんですけど、光源氏が年老いていくところなど、不幸になるくだりで筆が走っている。文章がすごくイキイキしているんですよ。マイナスとマイナスがプラスになってパワーアップしているような感じがして、強靭な精神の人なんだなと。
【辛酸】敵に回したくないし、友達にはなりたくない(笑)。現代語訳していて、「紫式部が降りてきた」みたいな瞬間がありました?
【大塚】辛い場面ほど筆が走っているような感じがするんですよ。現代の小説でもよくあるように「ここはノって書いているな」ということは感じました。たしかに辛酸さんが言うように、性格は悪いかもしれない(笑)
宮中のいじめなど、平安時代のエグさをもっと出して
――今、全体の3分の1ぐらいまで来ていますが、今後の「光る君へ」に期待することは?
【辛酸】まだ、紫式部は結婚もしていないし、天皇のお后付きの女房にもなっていないので、これから『源氏物語』を書き始めるんですよね。今のところ、吉高さんがすごくかわいくて、いい雰囲気で、さっき言ったような紫式部の作家の業というか、性格の悪さをあまり感じられないので、文才を発揮した時にどういうキャラに変身するのかが楽しみです。
【大塚】序盤で描かれた道長の次兄、道兼(玉置玲央)が紫式部のお母さんを惨殺するというのは、史実ではないにしても、当時、道兼、道長のような大貴族や皇族はやりたい放題で、受領階級を人間扱いしないという事実はあったわけで、それをエグい形で反映しているなと思いました。すごく面白いので、平安時代のリアリティを重視し、もっとエグいものを見せてもいいと思うんですよ。大貴族の横暴さとか、紫式部が宮仕えを始めたら、いろんなセクハラにもあったわけだから、そういうことも見せてほしいですね。きれいごとではなく、嫌なことも描かれているのが、この大河ドラマの良さだと思うので。
【辛酸】エグさを(笑)。そうですね。宮中でのいじめで糞便を投げつけられたとか、ひどい話がいっぱいありますからね。
【大塚】それに、当時の女性は、近世以降よりも地位が高く、特に国母(天皇の母)ともなれば一族のトップとして親兄弟よりも力を持っていることもしばしばでした。そういうこともきっちり描いてほしいです。