中国の不動産危機が深刻な状況にある。ジャーナリストの高口康太さんは「危機の原因は、習近平政権が打ち出した『新型都市化政策』にあるため、危機に対応することは自己否定になる。このため適切な対応を取れないリスクが高まっている」という――。
2024年3月11日、北京の人民大会堂で第14期全国人民代表大会(全人代)閉会式が終わり、拍手を送る習近平国家主席。
写真=AFP/時事通信フォト
2024年3月11日、北京の人民大会堂で第14期全国人民代表大会(全人代)閉会式が終わり、拍手を送る習近平国家主席。

不動産危機に対応できていない習近平政権

中国の不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の粉飾決算が明らかになった。2019年に2139億元(約4兆4900億円)、2020年に3501億元(約7兆3500億円)の売り上げた買いを水増ししていたという。合計で11兆7400億円、世界史上最大の粉飾決算となった。

恒大集団の債務危機が浮上したのは2021年末のこと。2年余りが過ぎたが、立ち直る気配はない。債務総額は2兆3882億元(約50兆円、2023年6月末時点)。2021年末から1900億元(約4000億円)ほど減っているのだが、“焼け石に水”であることは否めない。

ちなみに負債のうち1兆566億元(約22兆円)が下請け事業者などの未払い金、6039億元(約12兆7000億円)が前受け金(お金を払ってもらったので建設しなければいけない義務)である。この2項目だけで債務の約8割に該当する。これを放置しておけば、給与未払いや住宅ローンを組んだのに家が完成しないという人民が大量に出現し、暴れかねない。なのでまずはこの2つの債務だけでもどうにかしたいというのが中国政府の考えだ。優先順位が後回しとなった投資家や銀行への返済は望み薄と言わざるをえない。

ところが、先日、倪虹・住宅都市農村建設相が全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)で「大衆の利益を損なう行為は法に基づいて調査・処分し、しかるべき対価を払わせなければならない」と発言した。“悪い不動産企業を叩く”という見栄えの良いポジション取りで、裏を返せば泥をかぶってでも危機に取り組もうという姿勢はない。習近平総書記も不動産危機について指導力を示している気配は見えない。

それにしても、客からはお金をもらうだけもらって不動産は引き渡さず、実際に工事を行っている下請け事業者には金を支払わない……。悪魔のような商売だが、なぜこんなことが成り立っていたのか。実はこの仕組みは2010年代に中国不動産企業を発展させた“イノベーション”として知られている。