ネタとして面白い「陰謀論」

「水原事件」については、連邦地検が捜査を明らかにするまでは、「大谷の説明を完全には信じられない」というアメリカ人は多かった。

なぜ水原が大谷の銀行口座にアクセスできたのか。なぜ450万ドルもの額が送金されたことに、大谷も周囲の人間も気づかなかったのか。ほとんどの記者やファンが、疑問に感じている。

ドジャースの本拠地開幕戦で20人ほどにインタビューしたが、ドジャースファンでさえ、大谷の話を100パーセント信じていると答えた人はいなかった。

スポーツファンやコメンテーターには、「賭博を行っていたのは大谷で、水原も野球界も大谷をかばおうとしている」という陰謀論を持ち出すものすらいた。何の根拠もないが、その方が「球界最大のスターにまつわるネタとして面白い」からだろう。

日本人にとって大谷は、老若男女問わず誰もが知る国民的スターである。メジャーリーグという世界最高峰の舞台で頂点に君臨する大谷は、日本人にとって憧れであり、誇りを感じられる存在なのだ。それに、日本では、グラウンドのゴミを拾ったとかファンやスタッフに「神対応」したとか、大谷の一挙一動が報じられ、多くの国民が大谷という人間を少なくとも「知った気」にはなっている。

その大谷に「完璧」な存在であってほしいと願い、大谷が嘘なんてつくはずがないと思うファンが日本に多いのは当然のことだ。

しかし、アメリカでの大谷は、トップアスリートとして尊敬は集めるが、ファンが自身を重ねて誇りを感じるほどの存在ではない。

ドジャー・スタジアム
写真=iStock.com/Jorge Villalba
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「本当に大谷は賭けていないの?」

大谷の人間性も世間にあまり伝わっていない。スーパースターにしては、メディア露出が少なく、あまり取材にも応じてこなかった。アメリカ人にとっては、通訳を介してしか話を聞けないため、性格をイメージしづらい。プライベートについても、ほとんど語らないので、「ミステリアス」との印象を持たれている。

そういう背景もあって、アメリカのほうが今回のスキャンダルに関して、ニュートラルな見方をしている人が多いのは間違いない。

実際、何人もの友人たちから、「本当に大谷は賭けていないの?」と聞かれた。「そんな風に大谷を見るなんて不謹慎だ」と日本人は思うかもしれないが、何の思い入れもない有名人が似たようなスキャンダルに巻き込まれたら、同じような好奇の目で見てしまう可能性はある。

検察によると、水原は電話で大谷になりすまして銀行に送金を許可させたり、代理人を騙して大谷の口座を管理できないようにしたりしたという。こうした情報を検察が発表したことで、大谷の説明に納得するファンは増えた。