ホームランボールでの摩擦

さらに、大谷が3月3日(米時間)に放ったドジャース移籍後初となるホームランをめぐっても、ちょっとした騒動が起きた。

記念ボールを拾ったアンバー・ローマンさんが、「夫と引き離され、スタッフに囲まれた状況で、ボールを持って帰るのなら本物認証をしないと言われ、即決を迫られた」と球団の対応に不満を漏らしたのだ。結局、サイン入りのボールとバット、帽子2個と引き換えたという。大谷にも対面できなかった。

批判を受けたドジャースは、ローマンさんと夫をVIP待遇で本拠地での試合に招待して和解した。大谷はローナンさんと対面し、サインや写真撮影に応じた。球団は記念ボールの回収方法も見直すと発表した。

また、大谷がホームラン直後の囲み取材で、「まあ戻って、ファンの人と話して、ハイ頂けるということだったので、ハイまあ僕にとってはすごく特別なボールなので、ありがたいなと」とローマンさんに直接会ったとも受け取れるような説明をして、ウィル・アイアトン通訳が「僕がファンの方と話して、ボールを返してもらうことができました」と英語に訳したため、米メディアには混乱が起きた。大谷とローマンさんの発言の食い違いを受けて、「大谷は嘘つき」と批判したり、賭博疑惑と絡めたブラックジョークをSNSに書き込んだりする他球団のファンすら現れた。

これらの騒動や事件が大きな話題になったのは、大谷がアメリカで「セレブ」としての地位を確立したことの裏返しでもある。記念ボールの件などは、大谷以外の野球選手だったら、ニュースにすらなっていないだろう。

こちらに向けて指をさす人
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7億ドル稼ぐ選手を快く思わない人も

今や大谷は、日本だけでなく、アメリカでもその発言や一挙一動を注目される存在になりつつある。アメリカで、ここまでの地位に上り詰めた日本人は他に思いつかない。

人種や価値観が多様なアメリカには、国民全体が一体となって応援するようなスターは存在しない。注目度が高まれば、批判される材料も増える。人気が出るほどアンチの数も増える。大谷と同じロサンゼルスでプレーするNBAのレブロン・ジェームズや、NFLの名クォーターバック、トム・ブレイディといったトップアスリートもそうである。「スターの宿命」とも言えるだろう。

大谷のドジャース移籍は、野球界全体にとってみれば朗報と言えるが、脅威と感じる他球団のファンもいる。金に物を言わせて大型補強を行うドジャースが「悪の帝国」として映ってもおかしくない。自分の贔屓球団を選んでくれなかったことや嫉妬心などで、大谷を恨む野球ファンもいる。実際、古巣エンゼルスの球場では、大谷の映像が大型ビジョンに映って大きなブーイングが起きた。格差の激しいアメリカ社会で、一人のアスリートが7億ドルを稼ぐことを快く思わないアメリカ人もいる。